言の葉の樹

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アーシュラ・K・ル・グィン 著/小尾芙紗 訳
カバーイラスト 小阪 淳
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011403-X \700(税別)

なぜか何となく知ってるような気がする異世界

 はるかに進んだエクーメンの文明に接し、その惑星全体の文明に大きな様変わりを生じることになった惑星、アカ。だが、その変化は必ずしもエクーメンの人々が望んだようなものではなかった。それまで、比較的遅れていると思われていた種族が急速に力をつけ、アカ全土を支配下に納めると、それまでの古い伝承や古文書は次々と廃棄され、急速にエクーメンに代表される宇宙航行種族たちの文明レベルに追いつこうとする一種の独裁制が、アカ全土に覆い被さってきていたのだ。

 地球からエクーメンの観察員としてアカに派遣された女性、サティは、未だその痕跡が残っているかもしれない惑星の辺境への旅を開始する。旅の先々で彼女が目にするもの、それは急速な近代化への志向がもたらすひずみと、その中にあってなお根強く残る「語り」と呼ばれる伝統だった………

 ル・グィンの「ハイニッシュ・ユニバース」に属する物語の一つ。異なる惑星の環境を丹念に描写する、ってあたり、主要な登場人物にとってセックスが案外重要な問題であったりするあたりは名作「闇の左手」に通じるモノがあるような感じもするけど、「闇の左手」が自然環境と感情の問題に深く突っ込んでたのに対して、こちらは社会と思想の問題に突っ込みを入れてみた作品といえるだろうか、違うか。

 登場する惑星、アカは文明の開化度という点では宇宙航行種族たちの文明に比べればかなり遅れた世界。ここに宇宙航行能力を持つ進んだ種族が突然やってくる。世の中の乱れに乗って勢力を持ってくるのは、それまで蛮人扱いされていた遅れた種族、文化的に成熟していないが故に彼らは地元の伝統的な文化を軽んじ、ひたすら進んだ文明に追いつくために、(進んだ側から見れば滑稽にも見えるような)様々な全体主義的、かつ急進的な社会変革を推し進めていく、つーあたりが読んでてこうじつに、海峡を挟んだ首領様の国を連想してしまって不思議な気分になってしまったな。

 もとよりル・グィンに、北朝鮮批判なんぞをやらかす気なんかはなく、伝承の持つ(秘めた)力と、伝統とか因習とかを激しく拒絶しようとする力がぶつかったときに、そのただ中にいる人々がどうなっていくのか、ってのをこのお話は描こうとしているのだろうと思うわけで、そのあたりの流れ、しみじみと良い訳なんですが、アカという星の奇妙な既視感から来る変な違和感が、最後まで抜けなかったかなあ。

02/08/10

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