人間たちの絆

刑事エイブ・リーバーマン

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スチュアート・カミンスキー 著/棚橋志行 訳
カバーデザイン 亀海昌次
写真提供 amana images
扶桑社ミステリー
ISBN4-594-03497-7 ¥781(税別)

しみじみと枯れた味わいを楽しむ警察小説

 空き巣ねらい専門の泥棒、ジョージ。何度か牢にぶち込まれた経験もある彼の犯罪スタイルは慎重にして緻密。狙いをつけた家をじっくり観察し、もっとも危険性が少ないと思われるタイミングを入念にはかって忍び込む。だが、今度の仕事はその慎重さが仇になってしまった。いつもの通り家人はコンサートに出かけて留守のはずのターゲット、だがそこで侵入した彼を待ち受けていたのは殺人が行われる瞬間だったのだ………

 シカゴの老刑事、エイブ・リーバーマンを主人公にした渋ーいシリーズ、第4弾。謎解きミステリのおもしろさより、登場人物たちそれぞれが、事件とは別にいろいろと考えないといけないことを抱えてて、それについてああだこうだと頭を悩ませ、友の助言を聞き、なんとか小さいながらも新たな一歩を踏み出していく、というお話の積み重ねがこのシリーズの魅力。レギュラーメンバーがどいつもこいつもいい具合に歳取ってんだよなあ。

 エイブの相棒、ハンラハンはアイルランド系のアメリカ人。前妻との離婚問題で疲れ切り、一度はアル中になってしまっていた人物。そんな彼も今は何とか立ち直り、新しい恋人と一緒になろうとしてるんだけど、彼女は中国系。中国系社会の実力者もまた彼女を見そめてて、とか、エイブの娘夫婦の離婚問題とか、ここまでの三作品で語られてきた小さな問題が、本書でも少しずつだけど動きを見せ、それに応じて人々の気持ちも揺れ動く。エイブ自身も刑事という顔以外に、地域のユダヤ教徒たちとのつきあいなんかもあったりして、公私ともに落ち着いた日々を送れない毎日。でもそれが自分の生き方だから、とことさら気負うこともなく事件に、家庭の問題に取り組んでいく。このあたりがいいんだな。

 ハンラハンをはじめ、エイブの行きつけのレストラン(経営してるのはエイブの兄)の常連客(みんなエイブ以上のジジイ)、裏社会の大物やエイブの家族たち、みんながいつものようにいい味出してる個人的信用銘柄。今回は犯人役が少々薄っぺらに過ぎ、事件解決の方にもう一つおもしろみが感じられないという恨みはあるけど、ま、いつものジジイたちが元気だからまあいいか、って感じ。終盤、娘の離婚問題で話しあうエイブと妻の会話から、こんなセリフを最後にどうぞ。

 「あの子は揺れているのよ、エイブ」ベスはいった。
 「三十年か四十年、時間をやれ。そしたら成長して乗り越えられる」彼はいった。

 ちくしょう、なんてかっこいいジジイなんだ。

02/05/09

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