派兵の代償

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トマス・E・リックス 著/藤田佳澄 訳
Cover Photo REX・PPS/ロイター=共同通信
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-041008-9 \940

つかみはオッケー、でも途中で握力減衰

 2004年、核戦争の危険も示唆されるアフガニスタンに、小規模な米軍部隊が駐留していた。軍事的なプレゼンスの意味合いを保ちながらも、表向きは難民保護、という名目で派遣されたその部隊は、予備役の兵士たちで主な構成された実戦には不向きな部隊だった。軍に性急な実戦行動を起こして欲しくないと言うホワイトハウス側の意向によって選抜されたこの編成が悲劇を招いた。ウズベク人ゲリラの奇襲により、十数名の兵士たちがなすすべもなく死んでしまったのだ。政府の無策により無意味な犠牲者を出した軍部の中には、公然と政府の方針を批判し、軍の改革を主張する青年士官たちの動きが活発化してくる。だが、そんな彼らの動きの背後には、次期統合参謀本部議長の座を狙う一人の野心的な将軍の思惑があった………。

 「ワシントン・ポスト」のペンタゴン担当記者による政治サスペンス。無能なシビリアンにコントロールされ、無意味な損害を出してしまうことにいらだつ軍人の図、てのはなんかどこかで聞いたような図式でもあったりする。この本では次の参謀長を目指す二人の将軍が登場し、一方はやや保守的な野戦指揮官で、政府はしばしば愚策で兵士を無駄死にさせることもあるけれども、それでも軍人は政府の方針に口を出すべきではないと頑なに信じる人物。もう一人は新しいタイプの行動的な将星で、青年士官たちからも強く支持されている人物(統制派と皇道派みたいなもんか)として描かれる。この二人に同じ時期に補佐官として仕えることになった二人の若い少佐がメインのキャラとなってお話が進んでいく。行動を起こそうとする青年士官たちの連絡手段がEmailだったり、権威主義的な軍隊組織になじまない空軍の凄腕ハッカーが登場したり、今風な味付けもなされてて、そこらは興味深い。んでも小説としての点数は低くならざるを得ないな。

 メールをうまく使って裏で糸を引いていることを悟らせない、ある意味知能犯である悪役が、突然雑な犯罪に手を染めてみたり、終盤近くなって、あまりにも唐突に強力な救いの神が現れたり、スジがちょっとちぐはぐなのね。あと、本書の後半は軍事法廷がメインの舞台になるのだけど、この法廷の描写も甘い。ペンタゴン詰めの記者らしく、現在のアメリカ軍が内に抱えているかもしれないものに対する問題提起って部分はなかなかなのだけど、肝心の小説としての面白くなさが、それを損なってあまりある出来。「もうちょっと頑張りましょう」だな。

 なお、本書の原題は"A SOLDIER'S DUTY"。「兵士の義務」…というか「兵士の本分」とでもした方がしっくり来るタイトル(だし、内容にもふさわしい)なんだけど、どうも昨今の我が国の情勢などを視野に入れた、必要以上におせっかいで扇情的な邦題を付けているような気がして、そこも減点対象ですな。

02/04/23

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