ある日どこかで

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リチャード・マシスン 著/尾之上浩司 訳
カバーイラスト 佳嶋
カバーデザイン 柳川貴代
創元推理文庫
ISBN4-488-58102-1 \980(税別)

美しく、甘く、哀しく、でも納得いかん

 TV脚本家の36歳のぼく、リチャード。突然発見された脳腫瘍は、彼の命を残りあと4ヶ月から半年、と区切ってしまった。全てを捨て、残りの人生をあてどのない旅に費やすことを決めて旅立ったリチャードが立ち寄ったサンディエゴの由緒ありげなホテル、コロナード。そのホテルの「歴史ルーム」に足を踏み入れたとき、リチャードの人生は大きな変化を迎えることになった。より正確には、その部屋に飾られた、一枚の写真に目をとめたとき。1896年に撮影された一人の女優の写真にリチャードは恋してしまったのだ。

 クリストファー・リーヴとジェーン・セイモアによるラブロマンス映画のこちらが原作。映画の興行的にはさほどのヒットにはならなかった作品だけど、なぜか公開終了後からじわじわと人気が出て、今や結構な数の熱心なファンがついている作品なんだそうだ。何度かテレビでもやってるはずだけど、なぜか今まで見る機会がなかった作品。だから、ってわけでもないんだけど興味津々で読ませて頂きましたが………。

 あのー、これっていいお話なんですか?女性の皆さんはこういう男性がお好きなんでしょうか?だってですよ、約一世紀前の女優に惚れ込んでしまって、気合いがあれば時は超えられる、って信じ込んで、ほいでほんとに気合い一発でタイムトラベルに成功して19世紀のアメリカにやってきて、いきなり彼女の前に出て行って、「事情は説明できないが怪しいもんじゃない、信じてくれ」(怪しいがな、じゅうぶん)ってしゃべりかけてくる男性を、しかもその後もほとんど図々しいってレベルで「夕食をご一緒させてください」だの「朝食をご一緒させてください」だの「今日、もう一度会えませんか」などとたたみかけてくる輩を、いくらポール・ニューマン似の男前で、前もって占いのお告げがあったからと言って簡単に「あなたこそ私の運命の男性(ひと)だったのだわー」なんて思えるもんなんですか?恋ってなぁそういうもんですかね。わたしゃ読んでて、なんてクソ強引でイヤな男なんだろう、って感想しか持てなかったんですけど。

 もちろん、主人公は余命幾ばくもない身で、って設定がある以上その性急なアクションもそれなりに理由付けはされてはいると言えるのだけど、それでもなあ、オレはこの主人公の行動に全く感情移入できないんだよな。お話の流れの上で、もう少しその主人公の性急さを戒めるような箇所があったらだいぶ違うんじゃないかとは思うのだけれど。

 お話と言えば、その展開にももう一つ満足できないものがある。タイムトラベル自体になんかあっと驚くようなアイデアがある、とか言うのはもとより期待していないんである。この辺はジャック・フィニィの一連のタイムトラベルSFとおんなじようなものだろうな、って思ってたから、まあ主人公が気合いで時を超えてもそれはそれで許す。ただ、お話の結末には「時を超える」ことを逆手に取った鮮やかなエンディングを用意して欲しかった(ついでに言うとそれはハッピー・エンディングが望ましい)。一応アイデアはあるが弱い。どう見たってタイムトラベルものなんて、お話の整合性に無理が出てくるものなんだ。そこで、「冷静に考えたらそんなわけないじゃん」ってのを吹き飛ばすぐらいに鮮やかな「時を超え」たことが関係するアクロバットを一発用意してくれないと、時間SFを読む楽しみがなくなっちゃうと思うのである。んで、そこがどうもうまくない。確かに急転直下はある。でもそれが「おお、そうだったのか」って思わせてもらえない展開なんだよな(ついでに個人的にはラストの持って行き方にも少し不満はあるんだけど、まあそれは趣味の問題もあるから………)。

 哀感漂う、美しく哀しいラブロマンスであるとは思うんだけど、そういうわけで個人的にはイマイチな感じ。つーかそもそもオレにロマンスなんて向いてないって事なのかしらね(そうなんだろうねえ)。

02/03/28

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