フリーウェア

b020325.png/5.1Kb

ルーディー・ラッカー 著/大森望 訳
カバー 横山えいじ
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011393-9 \900(税別)

ギガはちゃめちゃで、ナミナミにふわりん

 新種の黴の一種、チップモールドによりあらゆるコンピュータ・チップが死滅してしまった21世紀中盤。だが、ユーヴィーと呼ばれる全く新しいコミュニケーション・ツールの登場と、チップモールドが新素材、イミポレックスと融合することで生まれた人口生命体、モールディの登場で、文明は新たな段階に入っていた。イミポレックスを接種して、様々に形態を変える事のできるモールディと、人類の共存関係は、万事うまくいっている、とまでは言えないけれど、まあまあうまくいってる方。そんなある日、モールディとのセックスにやみつきになった変態男が一人のモールディを誘拐したところから、騒ぎはなんだか訳がわからないが壮大な大事件に発展してしまって………

 「ソフトウェア」「ウェットウェア」に続くラッカーのデタラメ・パンクSF第三弾。前の二作が故黒丸尚さんの訳だったのに対して、今回は大森望氏が翻訳を担当。どちらかというと大森訳って個人的に完全には"ノって"読めない感じがずっとあったんだけど、ラッカー先生のはちゃはちゃSFとの相性は妙にいい感じで、やたら楽しく読めた。なんていうか、ラッカーのおかしな(いやもちろん誉め言葉としての『おかしな』)所を、今の日本の風俗とか世相とかにぴったりくるものに翻訳するとしたら、(軽いときの)大森望以上の適任者はいないでしょう、て感じだな。「銀河お騒がせ」のシリーズの解説なんかでたまにやる、軽薄で節操のない大森スタイルってあまり好きではないのだけれど、ああいうノリがラッカーの作品には案外しっくり来るのかもしれん。

 もとより原文がどういうものなのかはわかりゃしないのだけど、大森訳を通じてこの本を読むと、ほんとは優秀な数学者であるラッカーが、なんかのはずみでぶち切れて(数学を考えるってのはきっと猛烈に脳味噌をいじめる仕事なのだろうねえ)、キーボードに向かって「うひひひひひひひひ」とか笑いながら妄想を文章にしてる感じが伝わって来ちゃって、なんか楽しいんだよなあ。そういうわけで読む方も、次々と繰り出されるラッカーの奇想に、「うへへへへへへ」と呆れながら楽しんで読むが吉。

 なんかむちゃくちゃな本みたいだけど(まあきっぱり否定もできないけど)、本書に登場する様々なSF的アイデアって、妙に「そういうのもありかもしれんな」などと思えちゃうあたりが、やっぱり脳味噌の出来が違うんだろうね。ま、そこまでむちゃくちゃだったら、そりゃ単なるトンデモ本になっちゃうわけで、ラッカーさん、最初はSF的なアイデアをマジメかつ必死に考えるんだけど、ようやくいいアイデアを思いついた瞬間、理性のタガがはずれて「うひひひひひひひ」モードに切り替わっちゃうのかもしれないねえ。

02/03/25

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)