孤高の鷲

リンドバーグ第二次大戦参戦記

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チャールズ・リンドバーグ 著/新庄哲夫 訳
カバー・ブックデザイン 中谷匡児 訳
学研M文庫
ISBN4-05-901114-2 \720(税別)
ISBN4-05-901115-0 \720(税別)

毅然として鼻持ちならないアメリカの古武士

 史上初の大西洋横断飛行を成功させたアメリカン・ヒーロー、チャールズ・リンドバーグの第二次世界大戦開戦前から終戦直後までの日記。

 リンドバーグと言えばまず「翼よ、あれがパリの灯だ」の大冒険、そのあとは妻、アンをともなっての太平洋横断、さらにセンセーショナルかつ悲劇的な愛息の誘拐事件(「オリエント急行殺人事件」のバックグラウンドのネタにもなっていたね)、その後はナチスによる戦雲が欧州を包もうという時期に徹底してアメリカの非戦を唱えた人物。その行動ゆえ、ともすればヒトラーのシンパみたいな評価のされ方をしたこともある人、というか本書を読むまで、オレも個人的にリンドバーグって人は、技術オタクで最新の技術をどんどん取り込んで発展していくナチスドイツとアメリカは結ぶべきだ、って考えの人だったんだと思ってた。

 ところが本書を読んでみると、リンドバーグって人は単純なヒトラー礼讃者とかなんではなく、彼なりに各国の軍備や政治形態などを検討し、現状での国力を考えたときに、ヨーロッパでドイツと戦争を起こすことはアメリカと同盟国である英国、フランスにとっては負け戦に繋がる確率が高いと判断した上で、非戦論を唱えていたわけで、決して奇跡の急成長を遂げたナチスドイツを無批判に礼讃していた人物などではなかったのだな。知らなかった。

 この人はこの人なりに、終始一貫した思想に裏打ちされた行動を取ってるわけで、自分の信念とあわないものであれば時の大統領であるルーズベルトに対してでも、直談判に及び、却って相手に疎まれてしまったりもするわけだけど、そういう状況下でも決してその生き方を曲げたりはしない。このあたりは見上げたものだし、その戦力差、政治の戦争に対する無策ぶりから開戦には断固反対の立場を取っていたものが、いざ戦争が始まってしまったら、祖国に対する義務感からすすんで戦争に参加しようとする。そして実際に赴いた戦地にあっては、敵味方の観念を超えたところで、近代戦争の非人間性に思いをいたして見せたりと、なんていうか一本芯の入った生き様みたいなものが日記からも読みとれて、なんというかこの、非常に"古武士"の風格充分な人物であると感じた。英語の文体がどういうものであったのか、もとより分かりはしないのだけれども、翻訳も比較的古風な文体が採用されてて、余計そう感じるのかもしれない。

 しかしこの人、微妙に好きになれないんだなあ(^^;)。知性も向学心も行動力も、ほんとにオレみたいな怠け者から見れば尊敬せざるを得ない立派な人なんだけど、妙なアメリカ人的お節介が鼻についてしまうことがしばしばあるんだ、この日記を読んでると。たとえば、

 占領下のドイツを訪問したリンドバーグは、そこで米軍にはドイツ人をジープに乗せてやったり、子供たちに食料やキャンディをわけてやったりすることが厳禁されていることを知る。そんな決まりは百害あって一理なしではないか、と嘆くリンドバーグには素直に賛成できる。でも、その後に続けて

 それはまた、われわれが望んでいるようなドイツ人に生まれ変わらせる最高の方法ではないと思う。むしろ、新しい戦争の種を蒔く方法になるのではないか。

 とか書かれると、何様ですかあんたがたは、って気になっちゃうんだよなあ。良きにつけ悪しきにつけ、信仰篤い、良きアメリカ紳士、って感じ。知性あり、進取の気性に富み、行動力があり、独善的でお節介。非常に"アメリカ臭い"人物なんだよね。だからアメリカ人にとってもヒーローなんだろうけど。

 最後にこの本、校正がズタボロでうんざりする。誤字落字は頻繁にあるわ、数ページ読み進む間に、サン・テグジュペリ、って人とサン・デグジペッリ、って人とサン・デグジュベリって人が登場したりするのはどうしたことか。もうちょっとマジメにやってください。

02/03/11

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