銀河パトロール隊

レンズマン・シリーズ(1)

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E・E・スミス 著/小隅黎 訳
カバーイラスト 生頼範義
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ
創元SF文庫
ISBN4-488-60316-5 \840(税別)

オールナイトニッポンとカップ麺の味と参考書の思い出

 "レンズマン"といえば、やはりオレらの年代だと小西宏氏訳、真鍋博氏のカバーイラストになる創元SF文庫が最初に思い浮かぶのではないかな。少なくともオレはそう。深夜放送を聞きながら勉強することを覚えた頃だから、多分中高生の頃だったろう。ヘッドホン(今みたいな軽量型のものじゃなく、ぴっちり耳を覆う密閉型のもの)で聞くノイズ混じりのオールナイトニッポンのパーソナリティーは鶴光にあのねに拓郎、そんな時代。発売されてまだそれほど経っていないカップヌードルを夜食にすすりながら、ブラックホールを投げつけ、小惑星を撃ち合う大艦隊戦のシーンを何度も何度も読み返した。"レンズマン"、とりわけ「銀河パトロール隊」、「グレー・レンズマン」、「第二段階レンズマン」の三冊は、もうページのあちこちにカップ麺のスープのシミが付きまくるぐらい何度も何度も読み返したものだ。もう涙が出るほど懐かしい。

 野田大元帥が"瑞々しい興奮そのもの"と表現される文体の魅力は、もとよりオレにはわかりゃしないのだけれど、なんかこう、20数年音信不通だった友人とばったりあってあーだこうだと話をする楽しさ(と、『お互い変わっちゃったよなあ』と言う一抹の寂しさ)をとことん味わえる本。人に勧めることは正直しづらい(物語の起伏のスケールでは、これを遙かにしのぐ『ハイペリオン』などという化け物もあることだし、SF的なガジェットの考察でも後発のハードSFの考証のおオタクぶりには太刀打ちできないわけだから)のだけれど、それでも「あの」レンズマンを、日本SF界屈指のBNF、柴野拓美こと小隅黎氏が訳しているとなったら、こりゃ読まないヤツはSF的に非国民でしょー、てな勢いで。

 本体である小説部分も楽しさ、懐かしさ満載なんだけど、オレみたいなロートルSFファンにとっては、訳者小隅さんの"あとがき"、野田大元帥の"解説"がまた涙ものにうれしいものになってて、お話自体を楽しむ、と言う行為以上にオレがこのお話(訳された方は違うのだけれど)を読んでいた"あの時期"に強制的にタイムスリップさせられたような、なにやらほろ苦く、かつ甘酸っぱいものをたっぷりと味わった読書体験ではあった。「ノシャブケミング神」、「QX!」だのというおなじみの言い回し(そういえば『小数点以下18位まで一致します!』てのはどうなった?)、何度も何度も読んだ故にそのお話の筋は分かり切っているにもかかわらず、やっぱりわくわくしちゃうんだよなあ。

 一点、不満があるとすればそれはカバーイラストって事になるだろうか。真鍋博画伯の創元版カバー、評判は今ひとつだったらしい(オレはあのイラストが大好きですが)のだけれど、今回の生頼画伯のイラストに比べたら、数段すばらしいものだったのではないかと思うのだが、つーか生頼さん、それはちがー、と声を大にして言いたい気分。キムをそんな、スタローン主演の出来損ないSFの主人公みたいなイメージで描いちゃイヤっ!って感じですな。

02/02/08

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