グリーン・マーズ

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キム・スタンリー・ロビンスン 著/大島豊 訳
カバーイラスト 加藤直之
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ
創元SF文庫
ISBN4-488-70704-1 \1,100(税別)
ISBN4-488-70705-X \1,100(税別)

退屈さまでもが入念なハードSF大作

 前作、「レッド・マーズ」で一度は大災厄に襲われたテラフォーミング途中の火星。だが、新たな軌道エレベーターも完成し、地球の巨大資本によって牛耳られる火星には、再び大気と植物、そして徐々にだがやがて海となるであろう物をも、その姿を地表に現し始めてきていた。火星改造のパイオニアである"最初の百人"の生き残りのメンバーたちは、延命技術の進歩により今もなおその多くが健在ではあったが、2061年の大災厄の張本人として現在は巨大資本の言いなりとなってしまった火星の統治機構によりお尋ね者扱いとなってしまい、秘密のコロニーに隠れ住みながら、地球と巨大資本主体の火星開発に対して様々な抵抗活動を行っていた。だが、様々な思惑の交錯する中、ついに"最初の百人"の存在が統治機構の前に明らかになってしまう。それは火星に暮らし、そこを自らの故郷としていこうとする者たちと、火星を巨大なビジネスチャンスとしてしか見ていない地球の巨大資本との間で争われる、火星解放運動の第二ラウンドの幕開けであったのだ………。

 前作同様、やりすぎではないかというぐらいに丹念に、緻密に語られるテラフォーミングの実際と、それによって少しずつ変わっていく火星の環境の描写の緻密ぶりがものすごい。ものすごすぎて読んでて退屈してしまうくらいものすごい。この膨大な科学情報を自分の頭の中で理解し、ロビンスンの描く改造中の火星の姿を思い浮かべることのできる人にとっては、堪えられないワンダーに満ちた書物なんだろうと思う。残念ながらオレはかなり頭が悪いので、ロビンスンが淡々と述べていく火星の描写が、どちらかといえば退屈で、読むのがかなり苦痛な一冊であるとも言える。凄いことが行われているんだろうなあと思うのだけど、それがオレの頭の中ではヴィヴィッドに再構成されないきらいがある。結果、上下巻あわせて1000ページを超えるこの本、その大半を退屈しながら読む羽目になってしまった。

 しばしば興味深い箇所があって、そこで退屈の虫がちょっと治まってくれるのが逆に始末が悪いよな(^^;)。テラフォーミングにまつわる学術会議(しかもそこではしばしば地球の巨大資本の思惑が交錯する)の進展のなさの描写のおもしろさとか、そもそもの最初から火星にいた人々とその後の時代の火星人(その中には半ば人工的に産み出された生命も存在する)たちとの軋轢、未だに尾を引く「レッド・マーズ」の時の傷、とか、延々と続く退屈のなかに時々、「ほうほう」と興味を惹かれて読んでしまう箇所があり、それをすぎるとまた長い退屈がはじまる、というこの本の構造、非常に困ったものだと思う。

 総じて力作なんだけど、どうにもこう、気持ちの盛り上がりというか、沸き起こってくるわくわく感、みたいなものに乏しいお話であると感じてしまった。これはなんなんだろう。前作「レッド・マーズ」では、オレは大島豊さんの訳の劇画調に過ぎる部分に少々ケチをつけていたけれど、どうもそれだけが問題ではないような気がする(それともそうなのか?)ロビンスンの筆自体が、しばしば、今書いているエピソードの主体が誰なのかを割とすっ飛ばして進んでいるように感じるのだな。章ごとにメインとなる人物がいるのだけど、読み始めてしばらく、この章の主人公って誰だったっけ、と迷ってしまう、てなことがとても多くって、なかなかお話に入っていけない恨みがあった。なに、もっと注意深く読め?、いやまあそれはそうなんですけどね。

 またもやの感じもある、三部作構成のお話のこれは二作目、このあとに「ブルー・マーズ」が控えているわけで、これ単体のおもしろさとは別に、"レッド"と"ブルー"のブリッジになる、てな役割もあるだけに、少々退屈にならざるを得ないのかもしれない(でもお話的には結構大きな事が起きているのだけれども)けど、ちょっとこう、評価に困る一作ではある。最後まで読んだって事は、それ自体この本は"読ませる"本であるって事の証左に他ならないのかもしれないけどね。

02/01/10

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