裏切りの色

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マーシャ・シンプスン 著/堀内静子 訳
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
カバー写真 ©Rainer Drexel/Bilderberg/PPS
ハヤカワ文庫HM
ISBN4-15-173051-6 \840(税別)

 突然母を失い、最愛の夫ともまた、突然死別することになってしまった女性、ライザ。孤独を愛し、今はアラスカの沿岸を愛犬サムとともに移動図書館船、"サーモン・アイ"で巡回する彼女が北の海の岩礁で発見したもの、それは一人の男の子だった。直ちに救助に向かったライザだったが、危うく一命をとりとめたジェイムズと名乗る少年は、ライザの質問のほとんどをはぐらかし続ける。しかもジェイムズを拾ったことで、ライザの身には次々と不可解な事件が起きることになるのだった………

 アラスカ南部のフィヨルド地帯を舞台に、一人で海に生きる女が、海で出会った少年と関わることで事件に巻き込まれ、最後は自ら少年を助けるため戦いに赴く、という設定が大変に魅力的。カバー裏の宣伝文句なんか読むと、バーナード・コーンウェルあたりの骨太な海洋冒険小説が期待できそうで、読んでみたのだけれども、そちらの予想は裏切られてしまった。この作品は、海を舞台にしてはいるけれども、積極的に海と人間の戦いを描くようなお話じゃあない。それでは期待はずれだったか、というとそうでもなくて、これがなかなかいいんだな。

 お話の鍵になる少年、ジェイムズはネイティブ・アメリカンの一部族であるトリンギット族の少年。主人公ライザも白人とネイティブの混血、さらに物語の重要な脇役である警察官、ポールもまたネイティブ。アングロ・サクソン人たちの急速な勢力拡大の陰で、しばしばいわれもない迫害や差別、搾取にあってきた人々の哀愁と怒りを下味に、孤独な女性と少年の心のふれあい、同じく孤独な男と女のわかりあい、みたいなものが少し控えめな筆致で描かれてて、そこがとてもいい。愛犬サムを仲立ちにしたライザとジェイムズの心のふれあいとか、にたような境遇故に相手に警戒心と嫌悪感を感じてしまうポールとライザがわだかまりを解くまでの流れとか、そこらの描写がすてきだ。

 小説としては、元の文体自体がそうなのか、翻訳がうまくいっていないのかは判らないのだけれども、しばしばピントがずれるというか、さっきまでフォーカスがあってたものが突然別の被写体に切り替えられてしまったというか、そういうちぐはぐさが感じられて、ちょっとお話の流れを見失いがちになるところがあったり頭の悪いオレにもバレバレな伏線がちょっと興を削がれたり、あー伏線といえばこの原題もまずいでしょーとか思ったり、いろいろあるんだけど、ミステリであったり冒険小説であったりする前に、"心のふれあい小説"(そんなジャンルがあるのかどうかは判らんけど)として、かなりいいなあ、と思ってしまった。傑作とは残念ながらいえないけれど、なかなかの佳作ではあると思う。総じて良いです、これ。

01/12/19

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