増補新版

血と夢

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舟戸与一 著
カバーフォト 長倉洋海
カバーデザイン 森枝雄司
カバー印刷 真生印刷(株)
徳間文庫
ISBN4-19-891632-2 \648(税別)

 アフガン駐屯中のソ連軍軍事顧問団にゲリラ掃討戦の専門家として着任したワシリー・ボルコフ。しかし彼には、軍人としての顔以上に、世界の秘密情報部が血眼になってその身柄を追い求める理由があった。彼こそ、世界で初めて実用化された、ケースレスタイプの薬莢を使用した新型小銃の発明者でもあったのだ。薬莢の金属部分が不要となることで、同クラスの小銃に比べても飛躍的に大量の弾薬を携行することが可能であり、しかも小銃弾一発あたりの製造コストも軽減される、この革命的な小銃が量産されれば、世界の軍事バランスは大きく変動することが予想される。事態を重視した米国防情報局は、一人の日本人を非合法員として起用し、この小銃とその発明者の確保を画策する。その男、名を壱岐一平。優れた諜報担当工作担当官であったが、作戦行動中に親友を死に至らしめてしまった元自衛官………。

 理不尽な権力やマネーパワーの暴虐に虐げられる人々にあつい共感を注ぎ続ける舟戸冒険小説、最近何かと話題になるアフガニスタンを舞台に、タリバーン登場前のアフガンの状況に関する小さな解説を追加して刊行された特別版。一種の企画ものといえないこともないのだけれど、実際に現地に入って取材を行った舟戸さんのその記録が、どういう風に小説に反映されるのか、その一端がかいま見えるあたりは興味深い。

 ただし、舟戸冒険小説が本来持つ、汗くさし熱さのようなものは、今回は少しばかり少な目。主人公の動機が、わかりやすいのだけれども強烈ではない、というあたりが少しばかりつらい。素直に主人公の運命に共感できないところがあって、そこがちょっと惜しかったなあ。

01/12/18

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