グッドラック

戦闘妖精・雪風

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神林長平 著
カバーイラスト 長谷川正治
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫JA
ISBN4-15-030683-4 \860(税別)

 メカフェチSFファンが涙を流して狂喜乱舞した傑作、「戦闘妖精・雪風」待望の続編の文庫化。とりあえず前作を読んでないと話にならんので、それはちゃんと読んでいる、てのを前提に行きますんでよろしく。

 「戦闘妖精・雪風」の魅力って言うのは、まず短い体言止めの文章のたたみかけで語られるメカニクスの描写の格好良さ、そして、そのエンターティンメント・アクションSFとしての楽しさの裏に用意された、いかにも神林長平らしい、「情報」を仲立ちにした、ちょっとディック的な「認知」にまつわるテーマへのアプローチのおもしろさにあると思うのだけれども、前作に比べて今回の「グッド・ラック」は、その「情報」と「認知」、って部分に、もう一歩踏み込んできているように見える。「敵」か「味方」か、「敵」と「味方」を隔てるものは、じゃあなんなのだ、というのが前作のテーマだったとするならば、今回のテーマは、「敵」はなぜ「敵」として存在しているのか、何が違うからそれは「敵」なのか?ってテーマに突っ込んでいるような感じがする。そこに切り込む方法論というのがつまり、「コミュニケーション」であるということなのだろうな。

 人と人のコミュニケーション、マン・マシン・インターフェイスというコミュニケーション、そして人間の常識や予測が全く付かない、ジャムという存在とのコミュニケーション、というテーマが何重にも入れ子になった構成が、たいした苦労もなく読み進めていくことができるようになっているあたり、さすがは神林長平という感じ。ややシニカルで、それ故ユーモアも発揮できるというキャラクタの造形のうまさ、シャープなセンテンスのたたみかけで語られるシーンの描写のうまさが、かなり重たいテーマを、読んでる間はさほど重いと感じさせることもなく、ページを繰っていかせるように仕向けていると言うことなんだろう。

 格納庫には特殊戦機が並ぶ。待機中のそれらの機は雪風と同じく胴体下部からケーブルを垂らしている。まるでへその緒のようだ。そのケーブルによって電力を得、FAFという巨大な情報体に接続されているわけだった。胎児のように。いいや、違うな、と零は思い直す。この戦隊機たちは胎児というよりは、草を食む牛のようだ。危険をかいくぐって収集してきた情報を、改めて落ち着いたここで反芻している。彼らは草ならぬ情報を反芻しているのだ。

 飛行機の飛びっぷりをさも格好良く描写できる作家はいくらもいるだろうが、地上にあって様々なケーブル類を接続した飛行機の状況を描写し、しかもその情景がなんだかすごくリアルでかっこいいなあ、と思わせてくれる作家なんて、世界中を探したって神林長平しかいないような気がする。わたしゃこういうところにちょっとしびれてしまいますな。

 文句なしに面白い一冊で、今日本で手に入るあらゆるSFの中でも、おもしろさ、重要性、ともに五本の指の中に間違いなくはいる一作であると思うよ。個人的にはようやくその姿の一端を表したジャムの描写に不満なしとしない(案外と『俗な』感じだな、と思ってしまったんだった)けど、でもやっぱりコイツは日本SFの歴史の中で、最も重要な作品の一つといえるんじゃないかなあ。SFファンは必読でしょう。何となく続編も書こうと思えば書ける形で終わっているんで、逆にこの続きを神林さんにはぜひ!とお願いしたい気分ですな。

01/12/15

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