超音速漂流

改訂新版

b011213.png/5.2Kb

ネルソン・デミル トマス・ブロック 共著/村上博基 訳
装画 野中昇
デザイン 石崎健太郎
文春文庫
ISBN4-16-752793-6 \705(税別)

 300人以上の乗客を乗せ、高度6万フィートを超音速で飛行する最新鋭ジェット旅客機、ストラトン797。その日サンフランシスコを39分遅れで出発し、東京を目指すトランスワールド航空52便は、予定された航路よりやや南にコースを変更し、順調に飛行を続けていた。だが、52便が選んだコースの先では、アメリカ海軍による極秘の新型空対空ミサイルの発射実験が行われようとしていたのだ………。

 '80年代前半に、一連の航空パニック小説で人気を博した、トマス・ブロックのデビュー作。後にこの作品は幼なじみであったネルソン・デミルとの共著であったことが明らかにされ、介筆修正の上、あらためての出版という運びになったんだそうな。当然読むのも二度目だが、うん、おもしろさには変わりなし。ルシアン・ネイハムの「シャドー81」と並ぶ航空パニック小説の大傑作であると改めて思った。

 性能実験のため、非炸薬の弾頭を装備したミサイルが命中、爆発はしなかったものの、高度6万フィート(2万メートル)の超高空で一気に減圧と酸欠状態が発生した結果、偶然気密状態の環境にあったごく少数の人間以外は皆、生きてはいるが脳に重大なダメージを受け、生ける屍となってしまった機内のサスペンス、極秘の実験によって発生したアクシデントを何とか闇に葬ろうとする軍人たち、さらには、生存のために戦う生き残りの乗客たちを救うべき立場にありながら、社の未来と人命を秤にかけ、やはりこの事故をごく単純な墜落事故に見せかけようと画策する航空会社と保険会社の人間たち、と二重三重の危機の中、人生に少々疲れていた中年男が、生き残った人々を守りつつ、損傷を受けた機体を何とか無事に着陸させようとがんばる、ってあたりの描き込みがすばらしい。

 通常の航空パニックものだと、飛行機が飛ぶか、落ちるか、ってところのみにサスペンスがあるんだけど、ここに、脳損傷を受け、魂をなくした乗客たちが訳もわからずにゾンビ状態になって主人公たちに襲いかかってくる、という、もう一枚のサスペンスが加わってるあたりが、この本が人気を集めた理由なんだろうな。未読の方は、良い機会なので是非お楽しみくださいまし。

 さて、面白い本がまた読めるようになったというのは大変うれしいことなんだけど、今なぜ「超音速漂流」なんだろう、とふと考えてしまう。トマス・ブロックは前述の通り'80年代前半に本書、「亜宇宙漂流」(凡作)、「盗まれた空母」(まあまあ)などで人気を博したけど、その後は作家としてのキャリアは重ねてないが、本職である航空関係では、ライターとしてずっと活躍しているようだ。一方ネルソン・デミルの方は、ブロックと入れ替わるように小説の世界で次々とベストセラーを連発するようになっている。一応二人とも、現状は充分満足すべき状態であるにもかかわらず、なぜに本書をもう一度、しかも「実は共作でした」といって出版する必要性があったのか、よくわからないんだなあ。

 「超音速漂流」は、そりゃもうまことに良くできた小説で、特にオレらみたいにメカフェチ野郎にとっては長く記憶に残る小説なのは確かなんだけど、わざわざ共著だったということで、今度はデミルの名前を前に持ってきて再度出版、ってのは、なんか裏でもあるんじゃないかと勘ぐってしまうなあ。実はブロック、金に困ってたりしてな(^^;)

01/12/13

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)