エスコート・エンジェル

<プリンセス・プラスティック>

b011120.png/5.9Kb

米田淳一 著
カバーイラスト 緒方剛志
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫JA
ISBN4-15-030679-6 \640(税別)

 日本を極秘に訪問するアフリカの新興国、ルプセム公国のルアンヌ王女、女性護衛官一人のみをつれて2141年の新関西空港に降り立った彼女に日本側から護衛に送り込まれたのは、双子の美女、シファとミスフィ。やや背が高く、ロシア・バイカル系の端正な面立ちをたたえた二人の美女こそ、日本が総力を結集して作り上げたバイオロボだった。軍事上は「戦艦」に分類される自分たち二人を護衛につけなくてはならないほど、ルアンヌの訪日には重要な目的があるのか?そんな疑念はたちまち現実となる。宿舎に到着するやいなや、彼女たちの前にはテロリストたちの影が忍び寄ってきていたのだ………。

 いやあ、久々に設定的になかなか楽しくぶっ飛んだSFを読んだなあ。「戦艦」に分類される美女。170センチ少々のその体は、ワームホールを通じて、合計11万トン以上の各種の兵器と接続され、そのエネルギー総量は優に太陽の10%を越えるという超兵器、だの、ワームホール技術によりエネルギー問題が解決され、石油パワーに変わって情報パワーが国力を測る物差しとなった22世紀の地球、だの、世界に対して国家レベルの影響力を有する、アトラクターと呼ばれるごく少数のコンピュータ・ウィザードの存在、などなど。

 著者、米田淳一さんという方がどういう経緯の持ち主なのかオレは知らないんだが、いい意味で科学オタクな人なんだろうな、と思う。次々と繰り出されるSF的なアクションの描写は楽しいし、シリーズ物のための伏線の用意も怠りない。シファとミスフィの二人のAIの性格付け、AI故の葛藤、さらに心を持った兵器としての苦しみ、といった、まあお約束の部分も過不足ない(ついでに、未来をあつかったSF小説で、これだけちゃんと天皇家を登場させたってのは初めてなんじゃないか)。コンピュータ周りの描写は、140年未来にしてはちょっと、て感じもあるけど(140年未来にもexeファイルは存在してるらしいぜ)、読者のイメージしやすさ優先、ということに取ってもいい。いろいろと楽しい設定が次から次へと出てくるので、そこは大変に楽しめる。

 ただし、その設定の魅力とは裏腹に、なんて言うのかな、文章がぎごちないというか、文体が練られていないと言うか、小説としてどうも拙いというか、そういう感じがしてしまってちょっと惜しい。通常の流れの中での爽快なアクションと、お話の流れの上でキイになるところの密度とか、つながりとかがこう、どうもちぐはぐな感じがして、一本の繋がったお話を読んでいる気がちょっとしないんだった。あーあと、オジサン的に何人かのキャラクタの個性付けで「うへ」と引いてしまったです(^^;)。

 変なたとえだが昔の学習雑誌の付録に付いてる、やたら平明にリライトされた海外SFを読んでいるような、そんな物足りなさがつきまとうのだな。全体としてお話はまとまっていると思うんだけど、んん、もう少し物語の流れというか、エピソードの構成のしかたというか、そのあたりに気を遣ってもらえたら、もっと楽しめたんじゃないかなあとも思う。

 まあ、加筆修正されているとはいえ、これがデビュー作だそうだし、シリーズ物の幕開けでいきなり主役がズタボロ、っていうのも困るだろうから、こうせざるを得ないのかもしれないけど、んーむ、楽しめるんだがいまいちこう、「うほー」って気分になるところまでは行けなかったのが残念だったな。とりあえず続編に期待しておくです。

01/11/20

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)