クライシス・フォア

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アンディ・マクナブ 著/伏見威蕃 訳
Photo ©Steve Vidler/PPS通信社
角川文庫
ISBN4-04-279002-X \895(税別)

 1995年10月、シリア領空を飛行中の英国航空のジャンボ・ジェットから、夜陰に乗じて空中に飛び出す4人の男女があった。彼ら、英国秘密情報部工作員たちの目的は、シリアに潜伏中と見られる、オサマ・ビンーラディンの片腕といわれる人物、コードネーム、"(ソース)"と呼ばれる人物の拉致。だが、ターゲットの隠れ家に突入し、目標の人物を確保しながら、工作員たちに同行していた情報部の高官、セアラはいっこうに彼を連行しようとせず、逆にターゲットを殺害してしまう。

 それから3年、当時のチームメンバー、ニックのもとに新たな指令が届けられる。かつて行動をともにした高官、セアラが突然失踪したという。秘密情報部の中枢にあった彼女は、様々な機密情報を知った存在。もし彼女がテロリストたちと接触すれば、西側世界に与える影響は計り知れないのだ………。

 前作、「リモート・コントロール」が'99年6月だったから、かなり間をおいて刊行された、自身もSAS上がりの小説家マクナブの、これまたSAS出身の秘密工作員、ニック・ストーンを主人公とした冒険小説の第二弾。今や国際的有名人、ビンーラディンがらみって事で、まことにタイミングがよろしい、というか狙ったのか?

 前作同様、豊富なSASでの体験が随所に盛り込まれていて、特殊部隊員の活動というのがどういうモノなのか、その一端が見えてくるのが興味深い。SASの重要な任務に、IRAのテロリストたちの長期にわたる監視活動があるんだけど、その過程で確立された、目標の監視のノウハウが事細かに描写されていて、こういうのは実際に監視場所をもうけて、必要とあらば何日でも、この中に留まって目標を監視し続けた経験のある人間でないと、なかなか描けるものじゃあないのだろうと思う。延々と続く監視ポイントの設営と、その中での目標監視という、考えてみれば退屈この上ない状況の描写が、読んでて面白いってのはなかなかなもんだと思った。

 お話のスジ自体は、突然親友の殺害現場に遭遇し、7歳になる親友の娘と殺人犯という濡れ衣を伴って困難な逃避行に挑戦する、というシチュエーションがまず魅力的だった前作、「リモート・コントロール」に比べるとおもしろさって点では一歩譲る(主人公の行動に関しての動機がかなり弱いと思うのだな、今回は)けれども、実際に特殊部隊の作戦行動を経験したことのある筆者ならではのリアリティは今回も健在。なかなか、楽しめまする。

01/9/28

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