極秘制裁

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ブライアン・ヘイグ 著/平賀秀明 訳
カバー装画 浅野隆広
デザイン 新潮社装幀室
新潮文庫
ISBN4-10-219811-3 \590(税別)
ISBN4-10-219812-1 \590(税別)

 ユーゴスラヴィア、コソボ自治州。アルバニア系住民とセルビア人の間でなお紛争の絶えないこの地域に派遣された米軍特殊部隊9名のチームが、セルビア人35人を殺害したというニュースが飛び込んでくる。いったん軍刑務所に収監された9名だが、軍法会議の結果が黒と出れば軍内部からの不満が噴出し、白と出れば国際世論のアメリカ叩きは必至。この状況下、現地に送り込まれたのは、腕は立つが組織になじまないタイプの陸軍法務官、ショーン・ドラモンド少佐だった。どちらに転んでも身の破滅しかまっていないかに見える任務を前に、ショーンと彼のチームには突破口があるのか………。

 レーガン政権下の国務長官、アレクサンダー・ヘイグ氏を父に持つ作家、ブライアン・ヘイグの日米同時デビュー作。なんかアメリカではジャック・ヒギンズ(へー)、ネルソン・デミル(わお)、ジェフリー・ディーヴァー(ひえっ)といった超大物作家たちがこぞって推薦文をつけてくれたらしいけど、そりゃまあもと国務長官に「あーチミ、実は今度、せがれが小説出すことになってねえ」などと言われた日には、「あ、それはおめでとうございます。私のようなもので良かったら、推薦文ぐらいは………」って事になるよなあ(^^;)。まあ"良き兵士"を描くことがテーマの一つでもあるデミルはわかるけど、ディーヴァーがこういう事すると、こっちはちょっとがっかりだけど。

 そんなこともあって、実はあんまり期待していなかったんだった。国務長官の息子で軍人経験もある著者、ときたらこれはもうアメリカを悪し様に言うような小説を書くわけないもんな。しかし、訳者、平賀さんのこんなあとがきが、なかなかいいところを突いていると思えた。

 ところが、そうした懸念はいい意味で裏切られた。これがけっこういけるのだ。サンプリングが表現手法として認知・定着したデジタル・エイジのおかげもあろうし、メタの要素を加えることで陳腐化や剽窃気配を回避した戦術の勝利もあるだろうが、率直にいって、ブライアンくんはなかなか筆力があるのだ。

 いやもう全く同感で、この小説、少々軽量級ではあるし、エセ・ヒューマニズムとパックス・アメリカーナ信仰の胡散臭さもつきまとうのだけれども、エンタティンメントとしては結構いけてるんじゃないか。非常に映画向きというか、筋を丹念に追うおもしろさよりも、映画的にいいシーンを積み重ねるスピード感のある作品だと感じた。原書の文体やスタイルがどういうものなのか、もとよりオレには解りようもないのだけれども、訳者の平賀さんも、あえて今風な語りを随所に挟んで、とにかく読みやすく、楽しめるものにしようと試みているように思った、し、それは成功してるんじゃないかな。オレには少々軽口がすぎるように感じたけれども。おそらくネルソン・デミルが同じテーマで本を書いたら、オレは一日では読み切れなかっただろうと思うもんな(たとえば彼の傑作『誓約』のような話になったのではなかろうか)。アメリカにも"ライトノベル"とかいう訳のわからん物があるとしたら、こういうスタイルになるんだろうな、と感じた。平賀氏もその辺の匂いを感じ取って、あえてこういう訳し方をしたのかも知れないな。

01/9/26

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