反在士の指輪

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川又千秋 著
カバーイラスト コヤマシゲト
カバーデザイン 大塚ギチ・海老原秀幸
徳間デュアル文庫
ISBN4-19-905068-X \762(税別)

 地球内での戦闘を皮切りに、いつしか全宇宙規模の戦闘にまで規模が拡大した、"白王"と"紅后"と呼ばれる二大勢力の争い。そのさなか、忽然と火星の大地に現われた青年。燃えるようなオレンジ色の髪、息を呑む美貌、その手には巨大なハンドキャノン。一目見てポーンは思った。「まるでライオンだ」と。その美貌とは裏腹に危険な香りを漂わせるライオンに、新たな傭兵稼業のチャンスを見て取ったポーンは、ライオンに接近しようとする。だが………

 '70年代終盤から'80年代中盤にかけて発表され、川又千秋の名前を一躍世に知らしめた中編6編の再録。ただし後半の3編は単行本未収録のものと、今回の単行本化に向けて新たに書き起こされたもの。

 懐かしいなあ。たしか学生の頃だよな、「反在士の鏡」を読んだのは。日本SFが元気いっぱいだった頃の代表作。"白王"と"紅后"、"反在士"、"妄想された純粋鏡面"を使って超空間航行を行う"アリス・ドライブ"………。こういう不思議な、新しい、魅力的な言葉たちが、20年ぐらい前まではSF小説にはぽんぽん飛び出してきて、読んでるこっちの妄想もどんどん膨らんでいったもんだよ。当時の単行本では、加藤直之氏がカバーイラストを描いていて、氏の描くライオンも魅力的だった。

 妄想が生む虚の空間と現実世界を入れ替えることで、瞬時に鏡の向こうの世界にジャンプしてしまう"アリス・ドライブ"というコンセプトに、当時の青二才SFファンだったオレ達は卒倒しそうなショックを覚えたもんだし、妄想と現実が頻繁に入れ替わることで、いつしか妄想もまた"リアル"の資格を持ち得る、という、まああれだ、「火星の幻兵団」みたいなノリにも大喜びした覚えがある。

 映画「スター・ウォーズ」の大ヒットに前後して、世の中にSFがあふれかえった、いい時代だったよなぁ、などと思ってしまったよ。「スターログ」でしょ、サンリオSF文庫でしょ、マンガ奇想天外でしょ、「メカニックマガジン」なんていうトンデモすれすれの雑誌もあったよな。

 今でも日本にSFは溢れかえっているけど、当時の、見るもの全てにわくわくしてしまうような、そんな雰囲気はちょっとなくなって、細分化されたコミュニティごとに、それぞれのキイ・ワードでのみ盛り上がれるような、何となく閉鎖的なファン空間が今のSFにはできてる感じがして、ちょっとオジサンは淋しいものを感じてしまう。川又氏自身が「あとがき」を、SFの魅力は、果たして変化したのか?だとしたら、どのように?それとも———と結んでおられるけれど、「浸透」して「拡散」した(こちらは牧野修氏の解説から)SFは、今は拡散した先で雑多なコロニーを作り、没交渉のモラトリアムが乱立している状態なのかも知れないと思ったりはする。オレ自身がヒッキー傾向があり、コンヴェンションなどに出ることを極力嫌う性格だからよけいそう感じるのかも知れないけれども。

 などということを感じながら、お話自体は楽しく読ませていただきました。最後にライオンの、まことにタイムリーなこんな台詞を。

「ポーン、わたしは思ったんだ。わたしやあなたのように、本当に故郷を愛し、人間を愛している者はつねに小さな駒なんだ。そしてその駒たちに、祖国を愛せ、隣人を愛せ、と叫び続けているゲームの差し手は、実はそんなことをちっとも信じちゃいない。偉大な遊戯者ほど、そうなんだ」

01/9/25

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