20世紀SF(6)

1990年代 遺伝子戦争

b010921.png/6.4Kb

中村 融・山岸 真 編
カバーデザイン 祖父江 慎
カバー装画 早川モトヒロ
フォーマット 粟津 潔
河出文庫
ISBN4-309-46207-3 \950(税別)

 20世紀最後の十年簡に登場した英語圏SFアンソロジー。収録作品は次の通り。

 これまで各シリーズのトップにくるタイトルが、それぞれの年代ごとのサブタイトルになっていたものが、最終巻のこの巻では、サブタイトルとなる作品を収録作のトリに持ってきているあたりに、なかなかニクい心配りを感じますな(^o^)。

 さて今回の収録作品、'90年代に流行した、海洋冒険小説(つーか帆船バトルものだな)のエッセンスをスペースオペラに置き換えた、いくつかのミリタリーSFから代表者がピックアップされていない事を別にすれば、大変バラエティに富み、かつ、'70年代編や'80年代編で感じられた"読みづらさ"もずいぶんと軽減されたものになっている。それはつまり'90年代SFの最大特徴が、"リミックス"にあることに他ならない。

 今までに一度登場したジャンルのSFが、装いも新たに登場、ってなパターンが結構多くて、たとえばこのアンソロジーでも時間改変ものであったり、懐かしい宇宙ハードSFであったり一種のアフター・ホロコーストものといえる作品などが収録されている。もちろんそれらはみな今様なリファインがなされてはいるけど、今まで全く見たこともないジャンルというのは、ないといえる。かろうじて遺伝子テーマってのがあるかも知れないけれど、これだってハードSFの中に取り込まれてもいいものだし。

 それ故逆にどれも、悩むことなく楽しめる作品揃いで、お買い得な一冊になっては、いる。実は結構好きなビッスンの股旅SFが久々に読めて楽しかったし、イーガンの医学SF、「ハイペリオン」のいくつかの重要なキイ・ワードが出現するシモンズの掌編もいい。割と軽薄なノリのサイバーSFに見えて、最後に重たい一発を放ってくれるスペンサーの作品もすてきだった。

 でもこのアンソロジーで最も重要なのは、ラストの中村融氏の解説であると思う。'90年代とは、ある意味で、世界はかつてのSFが描いたとおりの場所となった。大げさにいえば、世界がSFと化したのである。とするならば、

 つまり、SFが世界に広まるにつれ、その迷妄も広まっていったということだ。したがって、世界がSF化したとき、SFが生みだした迷妄も現実の力をふるったのだ。もしSFが宇宙開発の実現に手を貸したことを誇るなら、地下鉄サリン事件を誘発した責任も引き受けなければならないだろう。世紀末にいたり、SFはその意味でも功罪を問われたのである。

 実に重たいではありませんか。ソウヤー、イーガンといった、英米とは別のところから、期待できる才能が出現したことはまことにめでたいが、この先SFが果たして、オレらがガキの頃、夜空を見上げただけでゾクゾクくるような、そんな夢と希望を与える力を持ち続けていくことができるのか、少しばかり暗く、苦い気分を残してこのシリーズは閉幕でございます。

01/9/21

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)