確信犯

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スティーヴン・ホーン 著/遠藤宏昭 訳
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫HM
ISBN4-15-172901-1 \720(税別)
ISBN4-15-172902-X \720(税別)

 依頼人は自分が犯人であることを確信していた。殺されたのはもと商務長官で、殺したのはワシントンの社交界でその名を知られた美貌のレディ。彼女が自分の弁護を依頼した相手は、腕は確かだが家庭に問題を抱え、少々情緒不安定な所のある貧乏弁護士のわたし、フランク。愛する父を自殺に追いやったことで殺人をおかしてしまったと述べる依頼人、アシュレーの境遇に同情したフランクは彼女の弁護を引き受けた。だが、検察側が用意した証拠の数々は、彼女が疑いもなくこの殺人事件の犯人であることを物語っている。そもそも彼女自身、自分が殺したと思っているのだ。この状況下、フランクが目指す判決は「無罪」。果たしてフランクと彼のチームには突破口があるのか………

 えー、ミステリは苦手である。オレは頭が悪いのだ。論理的な思考が大の苦手なんである。んだけど法廷物はわりと好きだったりする。刑事コロンボや古畑任三郎のようなタイプと同様、法廷物も緻密な論理の畳みかけで相手を打倒していくんじゃなく、話術と引っかけが結構重要な意味を持ってて、ほとんどズルかましで相手から重要な事実を引き出す、ってあたりの面白さなら、オレにもわかるからなんだろうと思う。で、コイツもそういう、法廷での駆け引きをメインに持ってきた作品。著者、スティーヴン・ホーンは司法省で検事の経験もある現役経験者。それ故弁護士たちの証拠集めのプロセスや法廷での駆け引きの描写はかなり説得力がある、と感じられる。

 お話自体も、自分が犯人だと思っている女性を無罪にしようと言うとんでもない目標に立ち向かう冴えない弁護士と、彼を支える腕利き私立探偵、法廷でのライバルになる腕利き検事、さらに徐々に登場してくる依頼人の父を巡る不可解な人間関係、主人公、フランクと別居状態の妻と息子、法曹界の大物の一人である義父と、多彩な登場人物で楽しませてもらった。

 基本的にアメリカの法廷では、事実がどうであれ、陪審員の評決が判決になるので、このお話のようにたとえ自分が犯人なのがわかっていても、陪審員に被告は無罪である、と思わせれば充分無罪が勝ち取れる(O.J.シンプソン裁判なんかもそんな感じだったよね)わけで、それ故こういうお話が生れる素地もあったりするわけで、日本とはちょっと違うなあという感じはする。

 お話自体はオーソドックスな法廷物として始まって、途中封印されていた、過去の大きな秘密が明らかになって、てなスジに、ダメ家庭人としてのフランクの葛藤なんかも上手に織りまぜてあって、なかなか楽しめましたです。

 それにしてもアメリカ人ってのは訴訟とセラピーが好きやなあ(^^;)

01/9/9

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