なつのロケット

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あさりよしとお 著
ジェッツコミックス
ISBN4-592-13279-3 \581(税別)

 あちこちでなかなか評判がよろしいようで、TUX導師も「なかなかいいよ」と仰ってたことだし、買ってみた。あさりよしとおのマンガを買うのは初めて。とにかく「カールビンソン」の一回目を「キャプテン」で見た瞬間(正確にはおとうさんを見た瞬間)に、「吾妻さんパクリ系かこいつはー」と思って一方的に嫌いになっちゃったのね(^^;)。最近の「あずまんが大王」とおんなじような流れ。その後、知り合いのみんなからなかなか手強い特撮オタの一面もあって油断できんよ、って言われてきたんだけど、結局ここまで買わずじまいだったんだなあ。刷り込み効果ってのは怖いと思う。

 で、このマンガ。うん、いい話だ。でも無条件で気に入ることはできない、つーか惜しい。もっといい話になったんじゃないかと思う。なんていうかなー、あさりよしとおさんが描きたかったのは、「子供が作ったロケットが衛星軌道に乗る」というハードSF的なワンダーであって、そのロケットを打ち上げる子どもたちに対しては、たいしてシンパシィ感じてないように見えるんだな。オレとしてはこの作品、ジュブナイルSFなのかな、と思ってそこはかとなく期待したのだけれど、残念ながらこれはそういう本じゃなく、子どもが主人公のハードSF、という側面の方が強いモノになっている。ここの違和感が最後までつきまとう結果になってしまった。よって、いい話だと頭では思うけれども心に響いてくるモノがない、という結果になってしまったんだった。以下、ジュブナイルSFを期待していたオレがなぜ「なつのロケット」に失望したか、を書いてみるならば、

 ジュブナイルには外しちゃいけないお約束があると思うのだ。まずここを抑えておいて欲しいと思うんだな。そのお約束とは、

 の三要素。「秘密と冒険」てのはわかるよね。「オトナ」てのはつまり、主人公たちの前に立ちはだかるオトナと、主人公たちを理解し、助けてくれるオトナたち。「恋と友情」は、これは必須(だし、この「恋」の力が「冒険」の原動力になってるような話がオレは好きだな)。オレはこの三つがちゃんと描かれていないと、良いジュブナイルにはならないと思っている。映画「ジュブナイル」を見られよ。この三要素がもう憎らしいくらい上手に取り込まれているでしょう。だからあの映画はステキなんです。で、「なつのロケット」が満たしているのは、辛うじて「秘密」という部分でしかないように思うのだ。

 こっちの一方的な思いこみでケチつけられてはあさりよしとおさんも迷惑な話だろうとは思うんだけど、オレはあさりさんはこのマンガでジュブナイルを描こうとしてはいなかったのではないかと感じる。むしろ、超小型でも衛星軌道に乗せる事が可能なロケットは作れる、という話があり、そこに子どもたちを連結した(ある程度そういう流れであったことは、あとがきなど見てみると確認できる)作品である、という印象をもった。それではオレはイヤだ。「なつのロケット」、いいタイトルではないか。口に出しただけで、なんかほろずっぱいものを感じないか。なのにこのマンガに登場する少年たちは、最小限のほろずっぱさしか演じてくれないんだ。オトナたちにも魅力がないんだ。だからラストシーンが、理屈ではいいシーンなのに、ちっともじーんとしないんだ。勿体ない。

 どういう事情があったのか知らないけれど、このお話、こんなヴォリュームで終わりにしていい話ではないと思うのだが。少なくともこの倍の分量は欲しい。泰斗と三浦くんの話、そこに絡んでくる藤根先生のエピソード。ついでにできたら恋のエピソードも(^^;)。描き足りてないことが多すぎると思う。

 敢えてそうしたのかは知らないけど、初期の永島慎二さんや坂口尚さんを思わせる絵柄とか、すごく魅力的に感じるのだけれど、描き足りていないことがあまりに多すぎると思う。すんげーもったいない。この倍のヴォリュームがあったら、傑作の可能性があったと思うんだけどなぁ。惜しいなあ。

01/9/7

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