竜の挑戦

パーンの竜騎士 8

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アン・マキャフリィ 著/小尾芙佐 訳
カバーイラスト 木島 俊
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011366-1 \740(税別)
ISBN4-15-011367-X \740(税別)

 奇形の白竜、ルースとの精神感合を果たした若きルアサ城砦ノ主、ジャクソムが惑星パーンの南ノ大陸で発見した謎の構造物、それこそは遙かな昔、パーンに移住してきた人類が残した対話型コンピュータ、アイヴァスのソーラーパネルだった。ジャクソムや同行した竪琴師ノ補、ピイマアらによって2500年の埃を取り払われたソーラーパネルとともに蘇ったアイヴァスは直ちに動作を再開、パーンの人々にさまざまな先進のテクノロジーを教えていく。あまりに特異な先進技術にパーンの人々の態度にもさまざまな変化が現れるなか、ジャクソム、ピイマア、さらにベンデン大巌洞の頭領、フ=ノルとその伴侶、レサ、竪琴師ノ主、ロビントン師らの理解と協力を得、アイヴァスは2500年を超えた究極の目標に向かって動き始めた。その目標こそ、パーンに周期的に壊滅的な打撃を与え、その防衛部隊として、パーンに竜と竜騎士を誕生させるもとともなった、致命的な"糸胞"を降らせる"赤ノ星"の軌道を変えることだったのだ。

 ハーレクインSFの西太后(だんだん格付けがすごくなっていくな)、マキャフリイの人気ファンタシイSF、正史の方の第八弾。ここに来て外伝、「竜の夜明け」と本編がリンク。ここまでどちらかというと、これがなんでSFなんだよ、といいたくなるようなお話が続いた「パーンの竜騎士」なんだけど、ここに来て、かつてきわめて進歩した文明があったにもかかわらず、何かの理由でいったんそれが後退してしまったのだけれど、とあるきっかけがもとでその後退した文明に生きる人々が最先端の科学技術を手にすることが可能になって、ってなテーマ(ありがちではありますが)が持ち込まれてて、かなりSFらしいノリになってきた。

 これまでの正史、外伝に登場する人々が続々と顔を出し、オールスターキャストでおくる、惑星パーン史上最大のイベントを縦糸に、突然出現した超技術を前に揺れる人々の動きを横糸に絡めたストーリー、書くのは達人マキャフリイ、これまでのシリーズを読んできた人なら楽しめないはずがないのだ。一種の超能力を持つ竜たちをこう使うんか、とか、これまでのシリーズ中で語られたエピソードが、こんな風に繋がるのか、とか(最初からそこまで考えていたとは思えないけどね)、興味は尽きない。頑固者のおじいちゃん、ロビントン師(どう見ても今回の主役は彼)もいい味。

 総じて久々に楽しめるマキャフリイ作品だったんだけど、でもやっぱりハーレクイン度は高いんだよな。底意地の悪さが控えめって言うか、普通、主人公たちが苦労に苦労を重ねてやってきたことってのは、いろんな局面でさまざまな困難に突き当り、それをひとつひとつ潰していってようやく目標が叶う、って、その瞬間に最大のピンチが訪れて、さあどうするどうする、ってな展開が物語としてのおもしろさに繋がるんだと思うんだけど、そこらがどうも甘いというか何というか、結局エエもんの独り勝ちかいっ、って思っちゃうんだよな。そこだけ、残念だ。久々に本編に帰ってきたいつものメンバーのエピソードもうれしいし、タイム・パラドックスまで手際よく盛り込んだなかなかの力作だっただけに惜しい。

01/8/31

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