ナヴァロンの風雲

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サム・ルウェリン 著/平井イサク 訳
カバーイラスト 生頼範義
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-040988-9 \820(税別)

 ナヴァロンの要塞砲、ユーゴの巨大ダムと次々と困難な任務を成功させ、疲れ果てて帰還した三人の男たち、世界的登山家のマロリー、もとギリシア軍の大佐の巨漢、アンドレア、そしてアメリカ人で爆発物の専門家、ミラー。だが彼らを待ち受けていたのは、休息ではなくさらに困難な特殊作戦だった。これまでとは全く次元の異なるドイツの新型高性能潜水艦三隻が、損傷を受けてフランスのどこかの沿岸で修理作業を行っているという情報がもたらされたのだ。この潜水艦が修理を終えて再び大西洋に出撃するようなことがあれば、間近に控えたノルマンジー上陸作戦でいったいどれだけの輸送船が損害を受けるか想像もつかない。何しろこの三隻は、水中を、駆逐艦以上のスピードで航行できるのだ。かくて二つの大作戦の疲れも癒えない三人の男たちは、三度過酷な戦場に赴くことに………。

 冒険小説屈指の傑作のひとつ、「ナヴァロンの要塞」は、著者アリステア・マクリーンによって続編、「ナヴァロンの嵐」が書かれ、ともに映画としてもヒットを飛ばした(特に「要塞」の方は戦争映画の大傑作)シリーズなんだけど、英国人作家ルウェリンが続けて新エピソードを書き起こしたのがこれ。訳者の平井イサクさんが、「昔の縁で、変な物を訳しました」などと"あとがき"で書いておられるとおり、どう見てもキワキワなんじゃねーかと思ってしまうのは避けられない所なんだけど、平井さんも続けて書いておられるとおり、読んでみて、驚きました。おもしろいのです。それも、ものすごく。

 (いいときの)マクリーンの作品ってのは、次から次へとサスペンスが襲いかかり、しかもそのサスペンスの影に必ず後を引くミステリっぽい伏線が用意されていて、ピンチ→きわどくそのピンチを切り抜ける→だが今のピンチはいったいなぜ?、ってな小さな山が積み重なっていく(「荒鷲の要塞」が、この辺うまかった)あたりにおもしろさがあると思うんだけど、ルウェリンはこの辺のさじ加減をかなり上手に自分の物にしている。名登山家のマロリー、戦闘の専門家のアンドレア、爆破のプロのミラーの三人のそれぞれの見せ場やキャラクタの描き込みも、ちょっとマロリーが甘くなったかな、という所が気になるぐらいで、なかなかうまくやってると思った。続編(ホントにあるんだな、これが)へのヒキもしっかり用意してて、なかなかこれは掘り出し物。肩の凝らないエンターティンメントとして、かなり楽しめると思いますわ。

 あ、どうでもいいですが、この手の作品だとカバーは生頼さんの出番なんだけど、アームストロング・ホイットワース"アルベマール"、なぞというマイナー飛行機を、生頼さんちゃんと書いててさすがだなあ、とか思っちゃった。ついでにドイツの新型潜水艦、生頼さんもシルエットで描いてるけどUボートⅩⅩⅠ型あたりをベースにしてるんだろうね。実際にはワルター機関は実用化されなかったので、これはフィクションならではの架空の潜水艦なのはいうまでもないけど。

01/8/28

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