第二次大戦回顧録 抄

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ウィンストン・チャーチル 著/毎日新聞社 編訳
カバーデザイン EOS Co.,Ltd
中公文庫
ISBN4-12-203864-2 \800(税別)

 ブルドッグを思わせる顔付きに葉巻スタイル、Vサイン。幾多の名台詞を残した英国の名宰相、チャーチルの晩年の大作、「第二次大戦回顧録」をコンパクトにまとめた抄録。以前ハヤカワかどこかで、4分冊になった同じく抄録があったような気がするが、こちらは1965年に初版が出版された、いわば草分け。あまりにもコンパクトになりすぎているような気がしないでもないが、第二次大戦勃発にいたるまでの経緯などはかなり分量を割いて収録されており、前の大戦の流れを詳しく知る、というよりは、なぜあの戦争が起こったのか、その手がかりの一端を知ろうと思うものにとってはかなりいい資料になるであろう本。

 それにしても、しばしば言われることだけれど、太平洋戦争なんていうのは欧米からみれば所詮は「田舎の戦争」でしかなかったということが如実に分かって少々凹まされる。特にヒトラーのドイツの攻撃の矢面に立って奮闘せざるをえなかった英国にとって、無限とも思える人的、物質的宝庫のアメリカを戦争に参加させることこそが最大の課題であって、そのためなら日本が戦端を開くこともあえて受け入れる、というチャーチル、というか権謀術数入り乱れるヨーロッパで生き抜いてきたものの外交的判断を前にすると、終戦まぎわまで不可侵条約を根拠にソ連が休戦に一役買ってくれるだろうと甘い期待を抱いていた日本の外交の見とおしの甘さとの差は鮮明。開戦した時点で既に負けが前提になっていた戦争を戦わされ、亡くなった人の数を考えると、当時の日本の指導者たち(軍民を問わず)の能天気なまでの希望的観測の甘さを今一度しっかりと批判せねばならんのではないかと思ってしまう。

 それはそれとして、チャーチルという人物、希有な人物なんだがこれほど平時むきじゃない政治家ってのも珍しいなあ、という感想もあわせて持った。なにせその事を、当の本人がもっともよく理解してるあたりがスゴい。

 私は長い政治生活中、大抵の国家の要職を歴任したが、この時私に課せられた任務が最も感激に浸るものであったことを率直に認める。権力というものは、これが他人に対して傲然たる態度で臨むか、あるいは自分自身に錦を飾るためのものである時は、下劣と判断されるのは当然である。しかし国家存亡の危機に際して、いかなる命令を下せばよいかを知っていると信ずるものに与えられる権力こそは、まさに神の賜物である。

 もうやる気満々なんですねこの人(^^;)。この、戦争するために生まれたような政治家を、大戦勃発と同時に国の最高責任者につけ、戦争が終わるやその任をあっさりと解く、という選択のできる英国民というのはなかなかスゴい。議会政治のキャリアの長さなんだろうけど、振り返って日本の昨今の政局を見るにつけて、政治家も、参政権のある大衆も、同様に成熟にはほど遠いのが今の日本だなあと痛感しますなあ。

 そうはいってもそこは英国人、こういう鼻持ちならないことを抜かすから100%ファンになれないんだけどね。

 そこで、敗れた敵に永続的な軍備撤廃を強制するのは戦勝国である。そのためには二重の政策を実行しなければならない。第一には、自分自身十分の軍備を維持しつつ、常に監視を怠らず、権威をもって旧敵国の再軍備を禁止する条項を強制すること。第二には敗戦国内に最大限の繁栄をもたらすような恩恵的行為によって、その国民を運命に甘んじさせるように努力し、あらゆる手段によって真の友情と共通利害の基礎を作るように努力し、それによって再び武器に訴えようとする衝動を絶えず減らすことである。

 はい、チャーチルが理想とした敗戦国に対する施策が奇跡のようにうまくいった敗戦国こそ、日本なんですよねえ(^^;)

01/8/16

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