大魔神

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筒井康隆 著
カバーイラスト 寺田克也
カバー(裏)イラスト 菅原芳人
帯(裏)イラスト 唐沢なをき
本文挿画 沙村広明
徳間書店
ISBN4-19-861348-6 \1,300(税別)

 映画のほうは結局ぽしゃっちゃったようだけど、一応脚本のほうは(決定稿なのかはわからんけど)出来てたようですな。筒井康隆が脚本を書く、てんで話題になった「大魔神」のその脚本。なんせ脚本なんで、本としてまとめるにはヴォリューム不足ってな判断でもあったのか、カバー、帯、本文と全部別のアーティストが担当。カバーは寺田克也氏、カバー裏の仮想ポスターに菅原芳人氏、本文の挿絵に「無限の住人」の沙村広明氏、帯の裏には唐沢なをきさんのマンガ(だから帯は捨てちゃダメだよ)と、まあにぎやか。表紙そのものの迫力もスゴいよね。これじゃ「大魔神」って著者の「筒井康隆」って作品に見えちゃうよなあ(^^;)。

 さて「大魔神」というのは超自然的な、一度怒りが発動してしまえばもはや善悪の区別泣く破壊の限りを尽くす「荒神」な訳であって、そこらの手のつけられなさみたいなものは、この筒井脚本でもかなり上手に表現されていると思う。実際、大魔神がいったん怒りの形相に変わった後の行為の恐ろしさの描写はかなり強烈だ。人の命の価値が、必ずしもその善悪でその後の運命がわかれるものでもない、って言うあたりを容赦なく描いてくるあたりはさすがに筒井康隆だと思った。

 ただ、ヤクザ映画じゃないけれど、ヒーローが堪忍袋の緒を切るまでの経緯ってのがかなり重要だと思うんだけど、そのあたりは逆にちょっと手薄かもしれない。筒井版の脚本では、私腹を肥やす悪党共は、あくまでその、私腹を肥やすことに熱心なだけで、あまり善いものに対して、非道な振る舞いをしてきた(だから成敗されて当たり前)ってあたりの感情移入が、このシナリオですんなりいっただろうか、って気はちょっぴりしないでもない。マルチ商法で大衆から金を巻き上げ、それを使ってご禁制の武器密売を行う悪徳商人、って図式はなかなかに今風なんだけど、今風であるがゆえに今ひとつ、「そりゃあ大魔神も怒るよな」って気になれないあたりはちょっと惜しい。

 筒井康隆らしいベタなギャグもあってなかなか楽しめる作品だけど、大魔神が怒りを発動させる、そのきっかけにいたるまでが少々弱いかな、とは思った。んでもこの絵はちょっと見てみたい。特に大魔神の怒りが発動した後のビジュアルはちょっと興味を引くんで、ちゃんと映画になった「大魔神」も見てみたかったなあ、とは思いますね。

01/8/13

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