怪獣な日々

わたしの円谷英二100年

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実相寺昭雄 著
カバーデザイン 神崎夢現
カバーイラスト 実相寺昭雄「円谷英二研究メモ」より
ちくま文庫
ISBN4-480-03655-5 \880(税別)

 ウルトラシリーズのトリックスター監督、"じっそーくん"こと実相寺昭雄氏がおりおりに書きつづった、「ウルトラ」や怪獣映画、円谷プロのさまざまな人々に関するエッセイをまとめた本。いくつかは既読でそれほどの新鮮味はないともいえるけれど、まとまったものを読む楽しみってのも、確かにある。特に音楽関係にまつわる文章は今まで読んだことがないものが多かったので、そこは興味深かった。

 ただ、副題にある「わたしの円谷英二100年」というニュアンスの本ではないな、これは。そもそも実相寺氏自身が、円谷英二氏ご本人よりは、その実のご子息である一氏と、英二の"息子たち"ともいえる金城哲夫、上原正三といった人々とのつきあいの方が主であったこと、映画の特撮ではなく、その後にやってきたテレビ特撮シリーズとのつきあいがメインであったことを考えればやむを得ないか。「ゴジラ」に代表される、映画人としての円谷英二とは別系統の、テレビ時代の円谷(英二ではなくむしろプロのほうの)の資料として見るべきものなんだろうな。

 いずれにしてもこれは、円谷英二に関する本というよりは、実相寺昭雄のごく個人的な思いのたけをまとめた本であるといえるかも知れない。それでもなお、円谷英二の映像の最大の特徴が、"物へのフェティシズム"である、と見抜いてみせる、映像屋としての彼の眼力は大したものであると思う。

 物へのフェティシズム、物へのこだわりを基調にして、本物かミニァチュアかの議論ではなく、その境界を少しずつ侵しながら、一体化させていく計算が巧みである。

 ああそうなのか、と改めて思った。たとえば海外の特撮作品では、使えるときには極力実物を使う訳で、最近の"パール・ハーバー"なんかでもその傾向はあって、結構(50年前の話にもかかわらず、平気で)現用の軍艦のショットを使ったりするけど、円谷さんは絶対そんなことはしなかったな、と思えるものな。実物が持つリアリティを信仰する海外特撮の考え方と、スクリーンに映し出されたときに本当であるように見えるかどうかにこだわった円谷英二的特撮の方法論の違いというか、そんな物をふと感じさせていただきました。円谷英二的世界にリサーチを試みる、後半が、改めて(実はすでに読んでた)素敵だなあと感じいったな。

01/7/21

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