夜のフロスト

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R・D・ウィングフィールド 著/芹澤 恵 訳
カバーイラスト 村上かつみ
カバーデザイン 矢島高光
創元推理文庫
ISBN4-488-29103-1 \1,300(税別)

 悪性の流感が猛威を振るう英国の小都市、デントン。デントン警察も多くの職員が病欠状態で、まともな捜査もままならない。そんな頃合いを見透かすかのように頻発する、謎の中傷レターばらまき事件、独り住まいの老女を狙った強盗事件。それはさらには残虐な手口の連続老女殺害事件へと悪質さを増して行く。しかも未解決の少女失踪事件、不可解な少女の自殺、富裕な若夫婦をつけ狙う謎のストーカーまで現れて、デントン警察は限界を超えるオーバーワークを強いられる。そんな最中にデントンに赴任した新任部長刑事、ギルモア。出世の一つのステップとしてやる気満々で赴任してきたギルモアだったが、着任早々折りからの人手不足で、予定外の相棒と組んで捜査にあたることとなる。その相手こそデントン警察きっての問題児、ジャック・フロスト警部だったのだ………。

 やる気無し、記憶力悪し、しばしば直感に頼って失敗をやらかす要注意人物、だけどなぜか軍人におけるヴィクトリア十字勲章に匹敵する、ジョージ十字勲章を授与されてる人物、ジャック・フロストが、気がついたら大活躍している(^^;)人気ミステリシリーズ第三弾。前作から約三年ぶりの登場。今回もフロストのキャラクターの魅力炸裂で全く楽しい。それでなくても人手不足なのに、次々起きる難事件。一応警部、という上級職についてるフロストとしては、ある程度全ての事件の面倒を見なきゃいけない。でも生来怠け者、なるべく楽したいフロストのおかげで署内は必要以上に大混乱、ってあたりの持って行き方は相変わらず面白い。事あるごとにフロストと角突き合わせる権柄づくのマレット署長の憎たらしさ、不幸にもフロストに付合わされるギルモアの不幸も読んでて楽しい。

 でもでも、どうしようもない人間に見える(し、実際そうなんだけど)けど、フロストっていいヤツなのだ。少なくとも、警官の仕事って部分に関してだけは一切妥協しない。例え睡眠時間が一日三時間しかなくっても、同僚の夫婦生活を破綻させても、上司の胃をどんなにきりきり言わすことになっても、事件解決、という一点のみに関しては、フロストは自分に対して後退する事も妥協する事も許さない。これがあるから、(たぶん)フロストはデントン署の同僚たちからも信頼され、読者に愛されるのだろうと思う。うん、あんたと組んで仕事をするのはまっぴらだけど、あんたが頑張る姿を読んで行くのはとても楽しい(^o^)。この(うれしくなるくらい分厚い)シリーズ、あと2冊未訳があるらしいけど、早めに訳して欲しいな。というわけでいつものとおり(って前のヤツは今はオレのハードディスクの中にしか保存されてないんだけど)、我らがフロストのシブイ一言でしめましょうか。

 「この仕事をしてると、胸くその悪くなるようなことを、それこそ山のように眼にするんだよ、坊や。そのたびに深刻に受け止めて、くよくよ考え込んでたりした日には、いずれ突っ込んできたバスのまえに身を投げる羽目になる。マレットはさぞかし悦ぶだろうけど、それで被害者(ガイシャ)が救われるわけじゃない———だから、おれは冗談を言う。冗談を言ってりゃ、因果な仕事の因果な部分を引き受けるのが、いくらかは楽になる。でも、気に障ったんなら謝るよ。」

 警部、あんたいい人だ(^o^)。

01/7/12

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