ノービットの冒険

ゆきて帰りし物語

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パット・マーフィー 著/浅倉久志 訳
カバーイラスト 小菅久実
ァバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011357-2 \800(税別)

 アステロイド・ベルト内の小惑星にこぢんまりとした家を持ち、周りのアステロイドから水や金属、ミネラルなどを採取して自給自足で暮らす小柄な人類種族、軌道生活者(ノービット)、ベイリー。いつものように蒸気ロケットで近くの宙域を飛行中に彼が見つけたもの、それはひどく損傷したメッセージ・ポッド。その表面には銀河系最大のクローン種族、ファール一族の手の込んだ紋章が。根っからマジメな種族、ノービットの一員であるベイリーは、宛名人に向けてポッドを拾ったことを通知する。だがその通信が、冒険よりは平安を、変化よりは変わらぬ毎日を送ることを最大の身上にする一人のノービットにとって、宇宙を股にかける大冒険への第一歩であることなど、当の本人は知るよしもないのだった………

 J.R.R トールキンの不朽の名作、ちうかこれさえなければ今現在のファンタジーの氾濫もなかったかも知れないのになあ、などとまで思えるくらい重要な作品、「指輪物語」の一種の外伝とでも言うべき「ホビットの冒険」を下敷きに、ちょっと懐かしめのセンス・オブ・ワンダーをちりばめた楽しいお話。短いサイクルで繰り返される起承転結の繰り返しのうちに、最後は善玉に属する主人公たちが全員ハッピーになる、ってストーリー展開は、確かに昼メロのノリと同一視されたが故にその名が付いた"スペース・オペラ"、ってジャンルのお話に相応しいような気がする。

 わたしゃ「指輪物語」は読んでない(ラルフ・バクシの例の前編だけ作られたアニメ映画は見ましたが)し、「ホビットの冒険」も読んでいないので、ノービット=ホビット、てこと、ノービットであるベイリーが小人っぽい体型をしている、旅の最大の障害がドラゴン、ってあたり、不思議な力を持った"RING"がある、ってぐらいしか共通点はわからないんだけど、「ホビットの冒険」を読んでる人、「指輪物語」の世界を良く知っている人であれば、2倍楽しめるのだろうな、と思う。でも、知らなくても充分楽しい。なんたって浅倉久志さんも読んでいなかった、って知って勇気百倍(笑)。

 んでこの本が楽しいのは、トールキンの原作がそもそもしっかりしたお話の筋立てを構成していることに加えて、大元のお話のキャラクターの特徴をしっかりと踏まえたうえで、そのキャラクタがSF的世界に居たらどういう動きをするだろうかってあたりを、丁寧に描いているところにあるんだと思う。このあたり、このあたりでホビットって種族がどういう特質を持っているのかを前もって踏まえて読んでみると楽しいかも知れない。

 壮大な神話のエピソードであるが故に、お話の展開に刺激的な部分がない恨みはあるけど、なんだかのほほんと楽しい一作。ホビットたちの生活パターンに習って、ビールなど飲みながら読むのが楽しいかも。原題の訳である、"ゆきて帰りし物語"も、意味深でしみじみと良いね。

01/7/4

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