特撮の神様と呼ばれた男

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鈴木和幸 著
カバー写真 ©東宝
アートン・刊
ISBN4-901006-21-5 \1,500(税別)

 「特撮の神様」、円谷英二氏の生い立ちから世を去るまでを、氏の故郷、福島県須賀川市生まれの作者が丹念にたどる本。とくに円谷英二氏が特撮技術の専門家として映画界の大看板になるまでの半生が大変詳しく記されていて興味深い。

 これまでも、少年時代から飛行機にあこがれ、青年になっては飛行学校にも通い、実際にパイロットの視点を経験していたことが、のちに数々の戦争映画の名ショットを産みだしたことなどは良く知られているし、もともとはカメラマンとして映画人生をスタートし、そのデビュー作が、これまた俳優デビューの林長二郎(のちの長谷川一夫)の映画であったことも有名な話なんだけど、この後の円谷のカメラマンとしてのキャリアが、映画会社を移るだけでその事が新聞記事になるほどの大物としてのそれであったことは初めて知った。

 それ以外にも、とくに少年時代から青年期、映画の世界に足を踏み入れたあたりまでの円谷の人生を詳しく述べた本というのが、案外これまで出ていなかったような気もするので、その辺の資料的な価値はかなりあるんじゃないかな。とくに少年時代から東京に出、その後一度は故郷に戻りながらも再び並々ならない決意を抱いて東京へと戻っていくあたりの展開ってのは、青春小説でも読んでいるような趣があって、ちょっといい。

 そのへんの、今まであまり知られていない円谷英二の人生を知る、って意味でかなり興味深く読めた。正直申し上げて文章がとても上手な方とは言えないのだけれど、とても真摯に、英二の人生を調べ、まとめる姿勢に好印象を持った。特撮ファンのための資料という点での価値はあるとは言えないけど、その生い立ちとかについては案外知られていない円谷英二という人が、いったいどんな経緯で映画の道に進み、さらにその中で特撮という分野で「神様」と呼ばれるに至ったのか、その辺を知る上でのいい副読本になるんじゃないかな。決して夢中になって読む類の本ではない。でも、著者、鈴木氏と同年代のオレとしては、たとえば「まえがき」でのこんな一文が、すんなりと「わかる」。

 私には忘れられない正月がある。それは昭和四十一年のことである。

 その夜は落ち着かない思いで、そして身じろぎ一つせずテレビの前に座っていた。なぜか。

「もうすぐ、ウルトラQが始まる」からである。

 市川森一が脚本を書いたドラマ、「私の愛したウルトラセブン」のキイ・ワードは「夢」であった。本書でも最終的に円谷を突き動かしたものは「夢」であったという結論が語られる。そんな単純な一言で決めつけていいのか、と思う反面、こんなまえがきがあり、そして「夢」で閉じられる文章を読まされてしまったら、ケチをつけようという気も著しく削がれようってモノではあると思ってしまうな。鈴木氏には申し訳ないが、オレとしては万人に読め、と奨めることは出来にくい。でもオレはこの本、決して嫌いではありません。

01/7/3

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