『2001年宇宙の旅』講義

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巽孝之 著
装幀 菊池信義
平凡社新書
ISBN4-582-85092-8 \720(税別)

 SFにとどまらず、あらゆる映画史上最も重要な作品の一つであろう、キューブリック&クラークによる傑作、『2001年宇宙の旅』。それまでのどちらかといえばサブカルチャー的エンタティンメント・ジャンルに位置づけられていたSF映画が、文芸作品としても通用する、思索性に溢れたものにもなりうることを証明し、さらにその"難解"さ故に、さまざまな憶測を生むに至ったこの作品が、SFというジャンルの中において、いかなる意味を持ち、その後のSFの流れにどんな影響を与えてきたのか、あまりにも不可思議なオブジェクト、"モノリス"が意味するものとはいったい何なのか、『2001年』以後、日本SFはいったいどのような変遷を辿ってきたのか、を解き明かす試み。

 何と言ったらいいのかな。なかなか楽しいんだ。欧米SFが、常に(往々にしてそれは異人種だったりする訳だけれど)異なるものからの侵略に立ち向い、それを排除することを主眼に置いたものが主流であったのに対し、日本SFが、その出自が敗戦→戦後民主主義の台頭の流れの中で、ファシズムとそれが引き起こす戦争という物への強烈なトラウマに支配され、欧米SFとは全く違うレールに乗って発達してきた、とする巽氏の分析は鋭いし、腑に落ちるところが多い。

 あるいは『2001年』の原作たる短編、『前哨』から、クラークは一貫して"ピラミッド"として描いてきたモノリスが、何故キューブリックによって1:4:9の比率の直方体となったのか、"キュービック"なものがその後のSFにいかなる影響を与えるのかを、たとえばギブスンの作品における没入(ジャックイン)などに準えて考察するあたりのアプローチも楽しいんだ。

 でも何故だろう。わくわくしない。

 すごく"わかる"んだ。巽さんが書いていることのどれもこれもが、「ああ、そうだよね」って気分で読める。文句付けたいようなところも、それほど、ない。でもわくわくしない。

 これは論文なのだからして、別にわくわくする必要はないのかもしれないけれども、んでも、何かに鋭く切り込んで行く文章を読む、って言うのはそれだけでわくわくする経験だと思うのだ。本を読む楽しみってのは、そういうことだと思うのだな。で、それがないんだよ。「ああなるほどなあ」とは思うんだけど、「おおそうだったのかい」とは思えなかったのだ。うーむ、なんかすげーゴーマンかました(うぷぷ)発言になってしまったが、そういうことでございます(^^;)。

01/6/4

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