神の火を盗んで

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ピーター・ミラー 著/野村芳雄 訳
カバーイラスト 西口司郎
カバーデザイン 多田和博
カバー印刷 真生印刷
徳間文庫
ISBN4-19-891512-1 \724(税別)

 東西冷戦の緊張の時代に名を馳せた英国のベテラン記者だったが、今は少々くたびれた中年の偏屈記者でしかないバークの許を訪れた、美貌のドイツ人女性ジャーナリスト、サビーネ。彼女はバークに、かつてスパイとして世界を震撼させた一人の人物の戦後史の再検証を依頼する。その男、クラウス・フックス。原爆製造プロジェクト、"マンハッタン計画"の基幹をなす科学者の一人でありながら、ソ連と通じ、原爆製造の秘密情報を漏洩させ、のち東独で余生を過ごしたといわれる彼の死には、不審な点があるというのだ。不承不承取材につきあうことを承諾したバークだったが、彼らの前には、第二次大戦終結から冷戦の発生に至る歴史の大きな転換点に潜む、巨大な謎が隠されていた………。

 原爆製造という人類史上屈指の巨大プロジェクト、"マンハッタン計画"にまつわる謎を軸に、国際間の謀略合戦とか科学者の良心とか、世界戦争から冷戦に時代にかけてのドイツ人、ロシア人、北欧の人々の置かれた環境などを横糸に絡めて送る、歴史謀略サスペンス。原爆という究極の破壊兵器を作り出したはいいけれど、そのあまりの破壊力に、科学者たちが我に返ってその使用に対して警鐘を鳴らした、って歴史的事実は有名なんだけど、そんな科学者たちの中に、これほどの超破壊兵器を、冷戦下においてどちらか一方だけが独占するのはあまりに危険であると考える人物がいても不思議はない、というツカミは悪くない。悪くはないんだけどこのお話はおもしろくない。

 何がおもしろくないか。スジだ。ご都合主義の展開を、最後で何とかそれらしくまとめようと、小手先のワザでなんとかしてみました、って感じが見え見えなのだな。だから、読んでる最中に「そうはいかんやろ」って思ってたことが、著者サイドとしては「いや、これがこういう理由でそうはいっちゃうんですよ」って理由付け自体があるのだけれども、それがまた「そうはいかんやろ」と重ねて思えてしまうのだな。

 著者にとってこれはデビュー作らしいんだけれども、それを差し引いても、少々あざとい章立てとか、いろいろやってはいるんだけれどもご都合主義の誹りを免れられないストーリー展開とか、良いところよりも悪いところの方が多い作品だと感じるなぁ。

01/5/24

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