死の泉

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皆川博子 著
カバーイラスト 横尾龍彦
カバーデザイン 中島かほる
ハヤカワ文庫JA
ISBN4-15-030662-1 \860(税別)

 第二次大戦中のドイツ。ナチスにより"優性人種"とされたアーリア人種の人口増加のためにドイツ各地に建設された"生命の泉(レーベンスボルン)"。そこにはドイツ各地から、私生児を身ごもった女性が集められ、優良なアーリア人の特性を備えた新生児が生まれたら、直ちに優秀なSS隊員の養子として送り出され、生え抜きのナチ党員として養育していく体制が整えられていた。ナチ党の功労者の一人、ギュンターの子を身ごもったマルガレーテも、他に頼る身よりのない身とてやむを得ず、レーベンスボルンに身を寄せる。だがそこで彼女は、優性幡種制作の陰で暗躍する狂信的科学者たちの企てを目にして………

 ナチス・ドイツの秘密実験、ゲルマンの古城、去勢され、カウンターテナー以上の高音域を発声可能な美青年、ナチス幹部による、フェルメールをはじめとした名画の数々………。はい、もうネタを列挙しただけでお耽美パワー爆裂の作品であろう事はたやすく予想できる。実際そういうお話。でもこの分厚さに敗けて読んでしまった一冊。で、そんなに悪くはないと思った。

 耽美系小説のもつ、饒舌のくどくどしさは確かにあるけれども、この手のお話でよくある、そのコスプレ的なインパクトのみを優先して、何もリサーチしてないんじゃないかと思われるナチスがらみの描写、なんてこともなく、過不足ない描写への気配りが全編に行き届いてて好印象。メタ小説的な構成もおもしろいし、オチもかなり効いてると思う。戦時中、戦後の二部構成をとっていて、しかもこの二つのパートにしっかりと関連性を持たせているあたりもうまいと思う。

 そのうえで、やっぱり女性が描く耽美の世界って、しばしば男を拒絶するなあと思ってしまうのも確かなところで。微妙なところで、「男だったらそうはしないだろう」的な、唐突な"はしょった"展開がしばしば見受けられるあたりで、100%のめり込むことはできなかった感じもあるなあ。分厚い本を読む楽しみは存分にあるんだけど、そこだけちょっと残念

01/4/24

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