赤い砂塵

デイヴィッド・マレル 著/山本光伸 訳
カバーイラスト 安田忠幸
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-040975-7 \840

 米軍のパナマ軍事介入作戦中、熟練のヘリコプターパイロットとして作戦に参加、乗機を打ち落とされたあとも負傷した戦友をかばって奮戦した勇士、チェイス。だが彼はその凄惨な体験のあと、軍籍を離れ、画家として第二の人生を歩み始めた。無名自体の辛酸の時期を過ぎ、ようやく一流画家としての名声を手にしつつあったそのとき、一つの不可解な依頼が彼の元に舞い込む。とある大物の武器商人が、自分の妻の肖像画を描いて欲しいというのだ。自らの意に添わない形での仕事は受けない、と申し出を固持するチェイス。だが、人に拒絶されることを好まない大物武器商人、ベラサーは、強硬手段に訴えてでもチェイスを自分に従わせようとする。その結果………

 デイヴィッド・マレル………。んー誰だったっけ、と思ったら、この人のデビュー作こそ、あの「一人だけの軍隊」だったんですな。そそ、スタローンの当たり役、「ランボー」の原作。骨太なアクションとは別に、緻密なプロットで読ませる、一流のミステリ作家としても評価の高いマレルですが、愛息を白血病で失ってからは、しばらくお話が迷走ぎみでファンを困惑させていたモノが、ようやく復活した、と言われる事になったのが本書なのだとか。うん、確かに面白い。

 戦うことに嫌気が差し、絵に自らの情熱を傾けつつも身体のコンディション維持には余念のない主人公、ってのはまあこの手の冒険小説にはありがち。敵味方のキャラクタライジングも、まあ取り立てて目新しいモノはない。しかしお話の流れのうまさ、特に終盤にいたるストーリー展開の起伏の付け方はさすがって感じ。逆にこのラスト、オレはヒロインに対して失礼じゃないかと思うんだけど、まあこの辺は読んでみて、判断してもらえたら。

 文句をつけたいところが2点。一つは邦題。原題は"BURNT SIENNA"これは絵の具の色の一つで、"燃えるように赤みがかった茶色"ってことなんだそうな。画家が主人公、そしてヒロインの特徴として、このバーント・シエンナは重要な意味を持つんですが、砂塵とは何の関係もありません。で、もう一つもこれに関連するんだけど、カバーイラスト。これはあまりに原作のイメージとちがう。ちゃんと本読んでイラスト描いたのか?と思ってしまう。大体この邦題とイラストで、オレはしばらくこの本買わないでいたんだもんな。この辺、少々安直に過ぎるっす。お話自体にはあんまり文句ないんだけど、装幀には文句ありまくり。

01/3/15

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