20世紀SF(3)

1960年代 砂の檻

表紙

中村融・山岸真 編
カバーデザイン 祖父江慎
カバー装画 笹部紀茂
フォーマット 栗津潔
河出文庫
ISBN4-309-46204-9 \950(税別)

 破滅への恐怖に満ちた1950年代に続く20世紀SFアンソロジーの第三弾。1960年代とはつまり、表向き戦争の恐怖もやや収まり、それに変わって消費文明がいよいよ華やかなものになっていこうかという時代。その物質的な豊かさとは裏腹に、米ソの冷戦はいまだ解消せず、アメリカはベトナム戦争の泥沼にどんどん引きずり込まれていく、明るい面と昏い面が常に一体になった、複雑な時代の気分を受け、さまざまなタイプのSFが登場した時代。いわゆる、新しい波(ニュー・ウェーブ)の到来。バラード、エリスン、ゼラズニイといったクセ者が続々登場してきます。

 個人的に、1960年代というと、僕がSFを好きになった時代な訳で興味もひとしおなんですが、この時期に僕が読んでたのは、むしろ'50年代以前の、スケールの大きな(あるいは荒唐無稽な)宇宙SFがメインだったわけですが、そのころSFの本場では、むしろ外宇宙から内宇宙への、視点の切り替えが進められた時期だったわけで、これはSFってジャンルが、一つ大人になった時期って事なんでしょうね。

 今読んでも全く古さを感じさせない名作揃いなんですが、「不条理日記」にもいきなり登場して読んでる方を面食らわせた、ディッシュの「リスの檻」がやっぱり異様に印象に残るかなあ。そういえば本書の解説でも引き合いに出されているバラードの言葉、

 「もし誰も書かなければ、わたしが書くつもりでいるのだが、最初の真のSF小説とは、健忘症の男が浜辺に寝ころび、錆びた自転車の車輪をながめながら、自分とそれの関係の中にある絶対的な本質をつかもうとする、そんな話になるはずだ」

 も、「不条理日記」に取り込まれてましたっけね。吾妻ひでおさんも、この時期のSFに夢中になったんだろうなあ、などと妙な感慨にふけってしまいましたです。

01/2/16

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