天空の劫罰

表紙

ビル・ネイピア 著/土屋晃 訳
カバー装画 ©Shigemi Numazawa/APB
カバー印刷 錦明印刷
デザイン 新潮社装幀室
新潮文庫
ISBN4-10-221821-1 \552(税別)
ISBN4-10-221822-X \629(税別)

 スコットランドの冬山、独り猛吹雪の中、ロッククライミングにいそしんでいた英国の天文学者、ウェッブは、突如目の前に現れた軍のヘリコプタに拉致同然の形で収容され、ろくな説明もないままアメリカに送り込まれる。送り込まれた先には、アメリカ、イギリス、フランスの一流の天文学者、物理学者、技術者たちが顔を揃えていた。ウェッブと同じように突然集められた彼らに向かって、米空軍将校、ノートホフは驚くべき知らせをもたらす。タカ派が政権を握ったロシアの工作で、宇宙のどこかに、探知されることなくアメリカへの衝突コースをとって接近しつつある小惑星があるらしい、というのだ。"ネメシス"と名づけられたその天体が現実ならば、その衝突によってアメリカは壊滅し、地球環境にも多大な影響がでるのは間違いない。いつ衝突するかもわからない小惑星を、わずか五日間の期限の中で発見し、その対策を講じること、それがウェッブたちに課せられた任務だったのだ

 現役の天文学者による小説、というと、フレッド・ボイルの「10月1日では遅すぎる」なんてぇのが有名ですが、本書の著者、ネイピアさんも、天体がもたらす危険性を常に警告している現役の天文学者なんだそうな。本書でもその専門知識である、巨大な天体が地球に衝突したときにもたらされる災害の規模の考察あたりに、専門家ならではの説得力が感じられてかなりリアル。お話は謎の巨大小惑星(なんか矛盾してますが)を発見しようと苦闘する天文学者たちのチームの苦闘、その騒ぎをきっかけに、政権の転覆をもくろむ政府高官の暗躍、さらに小惑星の手がかりをつかむうえで決定的な役割を果たすと思われる、ルネサンス期の禁書まで絡んだスケールの大きなSF風味のサスペンス。なんか面白そうでしょ?しかーし。

 これが微妙に面白くないんだなあ(^^;)。ネタ的な面白さは満載だし、そのネタを裏づける専門知識にも全く文句なし。実際、謎の小惑星の正体を予測、検討し、それが地球にもたらす被害を割り出して行く過程の描写の面白さは天下一品。ミステリとしてのフォーマットもちゃんとしてる。登場人物の描き込みも決して悪くない。なのに面白くない。オレ的に分析するなら理由は一つ。ツカミがダメダメなところにあるんだと思う。

 右派勢力が政権を牛耳るようになったらしいロシアが、人知れず宇宙のどこかよくわからないところにあるらしい小惑星に、アメリカにピンポイント衝突コースを取るように細工したらしい。その小惑星は、今も刻々と地球に接近しているらしい。早くなんとかしないと大変なことになるらしい。"らしい"のオンパレードでは、読んでる側が「こりゃえらいこっちゃ」って気になれるわけがないし、その後の展開に感情移入できるはずもない。クラークが絶賛したそうですが、たしかに小惑星の衝突、というSFの部分に対しては、さすがに専門家って感じで読ませるんだけど、お話としてはこいつはハズレです。せっかくのネタなのにもったいなかったな。残念賞。

01/2/8

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