雷撃深度一九・五

表紙

池上司 著
カバーイラスト 影山徹
カバーデザイン 関口聖司
資料提供 田宮模型
文春文庫
ISBN4-16-720602-1 \552(税別)

 1945年7月、敗色濃厚な日本、グアムからフィリピン方面に向かうと思われる大型艦を撃沈せよ、という不可解な命令を受けた艦長倉本少佐以下105名の乗員と特攻兵器"回天"とその乗員6名を乗せた帝国海軍潜水艦、伊号58潜が呉軍港を出港した。同じ頃、アメリカ海軍の重巡洋艦、"インディアナポリス"はテニアンめざして航行中だった。対日戦に決定的な役割を果たすと思われる三つの物資を積んで。そしてまた同じ頃、その近海を護衛もないまま、痛めつけられ、壊滅寸前になりながら本土をめざす商船団があった。この三者が交叉する所で、太平洋戦争における最後の海戦が行われようとしていたのだ………。

 テニアンに原爆を送り届けたあと撃沈されたアメリカの重巡、"インディアナポリス"のエピソードは、その沈没後、救助の遅れから乗員の多くが鮫によって食われてしまったという惨事を引き起こしたことでも有名です(映画"ジョーズ"のサメ狩りの名人も、"インディアナポリス"の生き残りで、それゆえサメを憎んでいる、というような設定になってましたっけね)し、この撃沈が人間魚雷"回天"の最後にして最大の戦果であった、という説もあるらしいです。

 池上司さんによる本書、この有名な史実を下敷きに、さまさまなフィクションを巧みにおりまぜて、ノンフィクションでありながら、そこに史実は史実として、その裏に実はこんなことがあったのではないか?というような作家の視点というか、仮説というか、そんなものを極めて巧妙に混ぜ合わせ、史実でありながら今までに読んだこともない物語を読ませてくれる、ってしかけになってるあたり、たとえば池宮彰一郎さんの「四十七人の刺客」なんかに通じる所があって面白い。

 お話は、戦争中ほとんど目だったエピソードのない日本の潜水艦の中で、ミッドウェイ海戦において空母"ヨークタウン"の撃沈に成功した伊号168潜に並ぶ武勲艦ではあるけれど、どちらかと言えば凡庸な部類の伊号58潜の艦長、倉木、将来を嘱望されながら、山本五十六との確執がもとで現役の重巡艦長の座を追われた民間船団の司令、永井、永井とかつて忘れ得ない体験を持った"インディアナポリス"の老練な艦長、マックベイという主要な三人の登場人物の魅力もあって読み応えたっぷり。水モノ好きの贔屓目もあるのかもしれないけど、これはなかなか、ノーマークだったけど面白かった。

 ところでこの本の著者の池内さん、池宮彰一郎さんの作品に通じるものがあると書きましたがそれもそのはず、このお二人、実の親子なんですね(^o^)。いやー、こういうときはなんといったらいいのやら。「トビが鷹を産む」、ちゃうちゃう「栴檀は双葉より芳し」、ちょっとちゃう、「カエルの子はカエル」………、うーむそうなんだけどなんかちょっと違うような気が(^^;)

01/1/11

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