BRAIN VALLEY

表紙

瀬名秀明 著
カバーCG 河口洋一郎
角川文庫
ISBN4-04-340502-2 \619(税別)

 つくば研究学園都市で脳科学者として研究を続けていた孝岡は、なかば強制されるような形で、突如民間の脳科学研究機関、"ブレインテック"への赴任を命ぜられる。複数の国家規模の機関からも資金援助を受け、世界でもトップレベルの研究機材とスタッフを揃えた機関、"ブレインテック"。だがその本拠はなぜか人里離れた山あいのひっそりとした寒村に隣り合って建設されていた。その不可思議な施設を目の当たりにしたときから、孝岡の周りには次々と不可解な現象が発生する。そして………

 「パラサイト・イヴ」の瀬名秀明氏の第二長編。自らの理系的な資質(などと簡単に決めつけてしまっては失礼になるのでしょうが)、圧倒的な科学情報をもとに描かれるテクノ・サスペンス・ホラーSF(なんだそりゃ)。猛烈に面白い。悪い意味で言われる"マンガ的"な展開と、クライトンもかくやって感じの情報のたたみかけが織り成すサスペンスが右と左に高くそびえたってできあがった細い峰の上を全力疾走してるって感じ、わかります?ものすごく危うく感じられる部分に迷いこんだかと思うと「ヤバいと思ったでしょー、でもね」てな感じでむりやりリアルな世界に引きずり戻され、おおやっぱリアルに怖いな−、などと思ってるといつのまにか、なんだか知らんがいかがわしい方向に話が入りかけて………、てな感じの不思議なゆらぎのようなものが妙に新鮮だし、それゆえ個人的には少々引っかかりを感じなくもない。

 マンガ的な展開ってのは、このお話のなかではある意味必然性があってそうなっているんですが、それにもかかわらず自分的にはそこで物語を読むことのドライブ感をいくぶんかスポイルされちゃう感じがあって、読むのにちょっと時間がかかっちゃったな。あと、ネタバレの危険があるんで詳しく書かないけど、テーマがテーマだけに、ワタクシ的になんとも納得の行かないしこりが残っちゃたのも残念なところ。それらを差し引いても面白さは圧倒的なんですけどね。「なんだかわからんけど読んでるだけで面白い」っていう、オレ的ハードSFの必要条件をしっかり満たしてくれててうれしいっす。日本製SFには少ないんですよね。

 上下巻それぞれに解説がある、っていう不思議な本なんですが、下巻の解説の大沢在昌氏が、瀬名氏の作品がもつ(こんどはいい意味での)"マンガ的"なビビッドさを高く評価してらして、これはオレ様も大賛成。この作品をビジュアルにするとしたら、もっともふさわしいのは映画でもアニメでもなく、絶対に超絶的な画力を持ったマンガ家によるマンガ作品になるべきだと思いますね。読んでる間中、私の頭のなかでは大友克洋さんのマンガになった"BRAIN VALLEY"が見えてましたですよ。ええ、コマ割りとか効果線までそれはもう鮮明に(^^;)。

01/1/10

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