エンダーズ・シャドウ

表紙

オーソン・スコット・カード 著/田中一江 訳
カバーイラスト 加藤直之
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワSF文庫
ISBN4-15-011330-0 \720(税別)
ISBN4-15-011331-9 \720(税別)

 あわや地球人類を根絶やしにするかと思われた、二度にわたる昆虫型異星生物、"バガー"の攻撃をかろうじて退けた地球人類は、その脅威に対処すべく、優秀な子供たちを集め、未来の艦隊指揮官として養成するためのバトル・スクールを開設していた。スクール屈指の成績をあげ、スクールが最大の期待を寄せる生徒の名前はエンダーことアンドリュー・ウィッギン。だがそれはエンダーが潰れてしまったらもはや地球の"バガー"に対する最高の対抗手段を失ってしまうことになる。スクールは極秘裏にエンダーをサポートし、いざという時はその替わりになりうる生徒の選定を開始する。白羽の矢が立ったのは、ロッテルダムのスラムで孤児として生きてきた少年、ビーンだった。

 現代SF史上屈指の傑作のひとつ、「エンダーのゲーム」と表裏をなす作品。わずか2才で路頭にまよい、その後その奇跡的な洞察力を武器に生き延びてきたビーン。彼のその能力の秘密とは、そして彼は如何にしてスクールの伝説的存在、エンダーと出会い、その"影"になって彼を支えていくことになるのか………。

 一つの事件を二つの視点から見る、ってのはたしか高千穂遙さんが「ダーティペア」と「クラッシャージョウ」(ちうか、ジョウのオヤジさんのクラッシャーダンでしたけど)でやってたことがあって、ものスゴく疲れた、みたいなことをどこかで書いてたような覚えがあるんだけど、変えられない事件がまずあって、そこにかかわる複数の人物のお話を書く、てのは相当な腕力が必要になるんでしょうな。高千穂さんのお話ほど事件のディティルはきっちり決まっているわけではないんですけど、それでもかつてエンダーが体験したいくつかのエピソードを踏まえつつ、全く別の主人公の物語があり、その中でかつての事件にも係ってきながらあくまでお話自体はビーンの物語になってる、てえ構成はなにかと苦労が多いことでありましょうな。

 さて、エンダーはもって生まれた天才児だったワケですが、その影となるビーンも、当然エンダーに匹敵する優秀な子供である必要があるのは確かで、でもまた生まれついての天才、ってな設定を流用するワケにはいかない、てことで、ビーンの生い立ちにはなかなかよく考えられた仕掛けが施してあります。この仕掛けのおかげで、お話のエピソードにも幅ができて一石二鳥。前半はこの、ビーンという存在の謎についてがメイン、後半がいよいよエンダーの影としてのビーンの活躍が描かれています。全体としてビーンの物語を楽しみながら、エンダーの物語における彼の感情の深い部分にもう一度思いをいたせるって構造になってるあたりはさすがにカード、達者なものです。

 カードさんご本人は前作を読まなくても楽しめる、とまえがきで述べてますけど、やはりこれは漠然とでもエンダーの物語を掴んでないと楽しめないと思いますね。まず「エンダーのゲーム」を読むのをお薦めします。あと、本書は久美沙織さんが解説を書いてはるんですけど、これがカードという作家の本質に迫る考察で極めて秀逸なんで必読。もしかしたら本編より面白いかもしれない(爆)。

00/11/06

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