漫画の時間

表紙

いしかわじゅん 著
カバー装画 いしかわじゅん
カバー装幀 新潮社装幀室
新潮OH!文庫
ISBN4-10-290009-8 \848(税別)

 一時いしかわじゅん氏はかなり好きなマンガ家の一人だったんです。"スピリッツ"が創刊され、そこで"ちゃんどら"が連載されてる頃までかな。小粒なインテリ、って感じの軽妙なギャグが結構楽しかった。一部マンガファンの間では有名な、"吾妻・いしかわ"抗争なんてネタもあったしね。そんないしかわさんなんだけど、'80年代の後半以降、マンガを描かなくなり、そのかわりにあちこちで文章を発表するようになったり、クルマに関するコミック・エッセイを描いたり、CFに出演したりするようになってからというもの、「なんだ、いしかわじゅんも鼻持ちならないプチ知識人の仲間入りかあ。」なんて気分が先に立っちゃって、急に嫌いになっちゃったんですね。

 そんなこんなで、本書も買わんとこかな−、て迷いもあったことはあったんですが、実は何かの本で彼が吾妻ひでおさんについて書いた文章があって、(好きじゃないけど)言ってることはしごくもっともだった記憶があるのと、やっぱマンガの評論本は読んでおきたいってことで、文庫になったのを幸い、購入したワケなんですが、結論としては読んでよかったと言える本でありました。今でもいしかわさんがあまり好きじゃないことに変わりはないんだけど、でもこの本はかなり好きです。

 なんていうか、僕が好きなマンガ家を、非常に正当に評価しているんですよね。それも、他ではめったに評価されることのない、みなもと太郎氏にまでちゃんと言及し、あろうことかいしかわ氏が大きく影響を受けた3人のマンガ家の一人とまで書いていること、いしいひさいち氏を日本最高の四コマ漫画家と評価していること、吾妻ひでおさんに復活のエールを送っていること、ついでに柴門ふみの軽率さを厳しく批判していること(ただし僕は柴門がダメになったのは夫の広兼憲史がどうしようもない大馬鹿野郎だったからだとも思ってるんですが)で、おもわずうんうんと頷いてしまったんでした。

 約100本のマンガ作品について、洒脱にして結構ディープな考察を詰め込んだ評論集。オレとしては星野之宣という名前が一回しか出て来なかったことだけは不満だけど、総じて納得できる評論の数々で楽しめました。余り好きになれない人物が、これほどまでにこちらの気持ちにぴったりくる本を書いてくれた事に、なんともいえん複雑な感慨を持っちゃうことも確かなんですけども。

00/10/30

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