ジョン・ダニング 著/三川基好 訳
カバーデザイン スタジオ・ギブ
ハヤカワ・ミステリ文庫
ISBN4-15-170405-1 \740
「死の蔵書」で一躍有名になったダニングさん、この本のおかげで「封印された数字」「名もなき墓標」といった、それ以前の作品も次々と訳出されてて、ダニングさんうはうはだろうなあなどと思ったりするわけですが、この本もそんな一作。年代的には「名もなき墓標」の一つ前の作品らしいですが、なぜかこちらのほうが後の傑作、「死の蔵書」に直接繋がる過渡期的作品に見えるのはふしぎなところ。プロットの組み立てが似てるからそう思うのかもしれないな。お話はというと………
新聞記者、警官、兵士とさまざまな職についてきた私、ウェスは現在は厩務員として各地の競馬場を渡り歩いている。一つの仕事に打ち込めない、という部分もあるけれど、それ以上に私を駆り立てているのは、孤児として育った自分の母の人生がどういうものだったのかを知りたいという欲求。カリフォルニアの小さな競馬場にいたらしいジンジャー。ノースという女性が私の母らしいのだが、彼女は私を産んですぐ、自殺してしまっていたのだ。彼女の死の真相を探るべく、その競馬場に職を求めてやってきたのだが………。
ダニングが"競馬シリーズ"を書いたらこうなる、って感じでしょうかね。ここでは後年の例の傑作のパターン、主人公の丹念な(しかしながら多分に地味な)調査からやがて真実が導き出されてくる、って話の持って行き方であったり、最後の予想を覆すドンデン返しであったりと、件のダニングの傑作が持ってる魅力がすでに見受けられるのがなかなか興味深い。
とはいえ「死の蔵書」以降だったらさらにこうしてただろうなあ、なんて感覚を持っちゃうところも結構あるのが面白い。いったい「死の蔵書」でダニングさんは何がきっかけで大化けしたんだろう、などと思ってしまいますな。
00/10/25