単独飛行

表紙

ロアルド・ダール 著/永井淳 訳
カバー 和田誠
ハヤカワ・ミステリ文庫
ISBN4-15-071258-1 \680(税別)

 「あなたに似た人」などで知られる短編小説の名手、ダールのちょっと風変わりな自伝。どこが風変わりかというならば、文体とか構成とかじゃなくダールさん自身の体験がもう風変わり(と言っては失礼なんですけどね)。

 自分の力で、自分の考えに従って行動したいと考えたダールが大学卒業後、選んだのはイギリスから遠く離れた土地で働くこと。そんな彼が射止めたのは石油会社、シェルの社員としてのアフリカ赴任。目的地までの面白おかしい船旅と、アフリカについてからの土地に人びととの微笑ましくも暖かいエピソードが続いていく中、ある種牧歌的なそんな生活の上にのしかかってくるのは第二次世界大戦の影。やがて戦争は始まり、ダールは会社を離れ、空軍に入隊することを決意します。

 ナイロビでの訓練の後、ギリシア、中東、エジプトと転戦していくその戦いは、実際には恐ろしく過酷なものであったであろうことは想像にかたくないのですが、ダールの筆はあくまで淡々としたもの。こういうのがジョンブルのスノビズムなのかな(^^;)。英国人って、ホントににっちもさっちも行かないところに追い詰められるまでは真の実力を発揮しない連中、って感じがあるんですけど、押さえ気味のダールの筆からも、そんな追い詰められている最中の英国人の無能ぶりがあちこちに見られて興味深いですね。百の単位で襲いかかるドイツ軍を相手に、わずか15機の"ハリケーン"戦闘機(飛行機ファンには言うまでもないことですが、この機体を必要以上に高く評価するのは英国人と強度の蛇の目ファンだけっす ^^;)で何かができると考える英国の軍隊の上層部、そんな上層部の振る舞いを、呆れつつも完爾と受け入れるダールをふくめたパイロットたち。もう、イギリス人やなあ(笑)

 被支配地域の人びとに対する能天気な無理解、ようやく勃興しようとするユダヤ人国家設立の動きにとまどう様子など、さしものダールからも英国人特有の鼻持ちならなさが感じられて、「勝手なこと言ってらあ」てな気になるのも確かなんですが、それと同時に、英国人ならではの尊敬すべき部分(自立、ってことへのシビアな考え方はさすがっす)もしっかり感じられてなかなかの読み応え。宮崎駿さんの解説もいいっすよ(^o^)

00/9/11

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