種の終焉(おわり)

表紙

北上秋彦 著
カバーデザイン 野津明子[芦澤泰偉事務所]
祥伝社文庫
ISBN4396-32779-X \876(税別)

 民間ながらも国家機密レベルの情報までも取り扱う情報サービス会社、IRSでアジア地域の重要な情報の分析を担当する朝倉の周りが突然騒がしいものとなってきた。有能な同僚の交通事故死、IRSのネットワークへのクラッキングの疑い、アジア各地の情報提供者から入ってくる不穏な動きとその陰に見え隠れするかつての防衛庁時代の知人の影………。そしてIRSのネットワークに何らかの手違いでまぎれ込んできた「福音プロジェクト」という不可解なメッセージから、それらの小さな謎が一つにまとまって、恐るべきスケールの謀略の輪郭が………

 最新の国際情勢、科学的なトピックを盛り込んだスケールの大きな陰謀とそれに立ち向かう情報分析の専門家、ってえ図式、誰がどうみてもクランシーのアレを連想しちゃう訳で、さらに本書ではあるしかけの部分がこれまたアレを色濃く連想させちゃう訳で、そのあたり少々損してるかも。それかあらぬか文庫で700ページというかなりのボリュームのある小説で、なかなか面白いんだけれどもやや小粒、ってイメージがなくもない。

 主人公朝倉が事故で義足を使ってる、という肉体的なハンデがあったり、情報収集やその検討に積極的にインターネットを利用していたり、人口問題、エイズやエボラ、果ては合成洗剤の危険性にまで言及してたりとサービス満点なんだけど、なんかこう"突き動かす"もんがないんだよなあ。ハイテクを持ち込むがゆえの人間味の希薄化と言うべきなのか、そもそもキャラクタにもともと魅力がないってことなのか………。うーん、本書に関しては後者やと思いますね。多彩な登場人物が入り乱れる、って図式は好きなんだけど、突っ込みが浅い感じがあるかな。あと、悪役に魅力ナシ。いろんな意味で悪の親玉の正体をはっきり描けない、って事情もあるのは判るんだけどね(^^;)。

00/8/22

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