本の雑誌血風録

表紙

椎名誠 著
カバー装画 沢野ひとし
カバー装幀 平野甲賀
朝日文庫
ISBN4-264236-X \760(税別)

 「あまりにいい天気なので、こんな日は家でゆっくり本を読んでいたい」そういっていきなり会社を辞めてしまった目黒孝二。そんな彼が友人たちに配ってくる読書録のあまりの面白さに、これを知人たちに配りはじめたシーナと目黒、ついでに当時からふしぎなイラストを描いていた沢野ら「あやしい」連中。あれよあれよと読者は増え、いつしかシーナたちはこれをちゃんとした雑誌にして、書店にも置いてしまおうと画策する。友人知人を巻き込んだ手弁当雑誌、「本の雑誌」はこうして誕生した………。

 目黒孝二さんとは言うまでもなく冒険小説評論家でもある北上次郎さん。本の虫であった彼の読書録から始まった「本の雑誌」のお話としては、その目黒さんの「本の雑誌風雲録」がありますが、これと対をなすような、なさないような(^^;)「本の雑誌」にかかわる人びとの青春譚。なんせシーナさんの文章ですから、面白くないわけがない。随所随所でくすっとさせられちゃうんですが、実はシーナさんたちが飛び込んだ世界って、結構一寸先は何とやらの世界なんですよね。なんたってみんな、他に本業と呼べる仕事をかかえながら、ほとんど趣味が高じた本作りにのめり込み、いつしかそちらを自分のメインの生業にしていく様ってのは、やはりなまなかな思いで決断できるものではないでしょう。本の雑誌社の社是には、

 ってのがあるそうですが、一見「ユル」く見えるこの社是、貫き通すのはなかなか大変なことだろうなあと思えますよね。好きなことをやり続けるために何を犠牲にするのか、それにどのくらいの覚悟を決めるのか、その辺にしっかりした意識がなければ、この「ユル」さの裏に隠された、覚悟の上でのお笑い、みたいな精神にはなかなか到達できないだろうと思います。

 僕は必ずしもシーナさんの文体のファンという訳ではないんですけれども、でもこういうお話はちょっといいな、って思います。楽しゅうてちょっと切ない青春譚。ある意味夏休みの宿題に最適な本かも(^o^)。

00/8/15

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