20世紀特派員(2)

表紙

産経新聞[20世紀特派員]取材班 著
カバーデザイン 小栗山雄司
カバー写真 産経新聞社
ISBN4-594-02931-0 \714(税別)

 男性がこうあってほしいとかってに型にはめた(文字どおりコルセットなどで嵌めてるんですよねぇ)女性たちの装いを、着やすく、活動的で、しかも美しいものへと変革した、旧世紀までのファッションに対する"皆殺しの天使"、ココ・シャネル。大衆が望むモノを、もっともわかりやすく説明し、実際にそれを与え、さらに不満のはけ口までも周到に用意して一気に権力のトップに上りつめたヒトラー。二つの大戦の後世界の各地でまきおこる民族自決の運動の嵐のなかで権力を握り、そしてあっけなくその権力の座から滑り落ちたスカルノ・インドネシア大統領。

 20世紀特派員の第二巻は、20世紀の最大の特徴ともいえる、"大衆の世紀"にスポットを当てた巻といえますか。二つの大戦を挟んで、女性の地位の向上、大衆政治家の台頭、民族自決という今までにない流れに直面した政治家たちの権力闘争を丹念にリサーチした一冊で、そこそこ読み応えあり。

 そこそこどまりなのは、希代の扇動政治家であるヒトラーと、彼に躍らされ、同時に彼を躍らせたドイツ国民の気持ちの動きがイマイチはっきりと見えてこなかったあたりが理由。ヒトラーだけで第二次大戦は起きなかっただろうけれども、それではそのままならば自身もまた、もしかしたら別のヒトラーを待っていたかもしれないヒトラーと、その他の大衆を分けたものは何だったのか、そのへんもう一声、ツッコミが欲しかった気がしないでもない。

 しかしながら、ベトナム戦争に世界が注目しているその同じ時期に、そのごく近い場所で、30万とも言われる虐殺がインドネシアで起きていたというのは知らなかった。インドネシアではスカルノ、スハルトという二人の大物政治家が登場した、というのは歴史の教科書でも教わるが、その二人の政権交代劇の陰で何があったのかは日本の教科書は教えてくれないんだよね、このあたりの事情が詳しく分かるって点でこの本は価値があると思いますよ。ついでに、いまや軽薄で悪趣味なオバサンでしかない、スカルノ氏の第三夫人であるデヴィ夫人が、若い頃は情勢の判断力に優れたひとかどの人物であったことがわかるのも収穫かも知れませぬ。それがどうしてこうなっちゃうのかねえ、とも思っちゃうワケですが(^^;)

00/7/24

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