マルベリー作戦

表紙

ダニエル・シルヴァ 著/田中昌太郎 訳
カバーイラスト 安田忠幸
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワNV文庫
ISBN4-15-040950-1 \820(税別)
ISBN4-15-040951-X \820(税別)

 ノルマンディー上陸作戦を控え、連合国側にはこれまでの戦訓をもとに、敵前上陸に際しての輜重に決定的な役割を果たすべく、巨大なコンクリートの建造物が次々と建造されていた。コードネーム"フェニックス"の名で呼ばれるこれらの構造物を海岸に沈めることで、港のない海岸にも急造の埠頭を作ってしまおうというのだ。だが"マルベリー作戦"の名で呼ばれるこの上陸支援作戦の内容が敵方に知られれば、連合国側の上陸地点が港の全くないノルマンディーであることが明らかになる。機密保持のために動きはじめた英国情報部だったが、同じ頃、ドイツ側もまた戦前に注意深く送り込み、その存在を隠しつづけていた諜報員にマルベリー作戦の真相を探らせるべく行動を開始する………。

 最近珍しくなった第二次大戦ネタのサスペンス。"マルベリー作戦"なる作戦は実在し、これによって連合国側による、上陸地点への急速な物資の揚陸が可能になった訳ですが、その陰で暗躍するドイツの女スパイ(時代劇ふうに言うなら『草』ってヤツですな)、元大学教授の英国の防諜担当者、新たに送り込まれたドイツのスパイ、IRAのシンパでドイツに協力する英国の漁師など、多彩な人物が入り乱れる本格的なスパイ・サスペンス。作者のシルヴァさんの本職はCNNのエクゼクティヴ・プロデューサーで、この作品は息抜きのつもりで執筆した作品なんだそうですが、とんでもない息抜きもあったモノだ(^^;)

 この手の作品は、史実をもとにしているだけに虚々実々のキャラクターが入り乱れてドラマを繰り広げるあたりに面白さがあるんですが、「実」のキャラクタであるヒトラーやカナリス、チャーチルといった人物たちがわりとありがちな人物像になっているのに対して、「虚」の側のキャラクタたちの方はかなり上手に人物像をつくりあげているように感じます。もともとは歴史を専攻する大学教授の主人公、ヴィカリー、ヴィカリーを補佐する警察官のハリー、彼らの上司で鼻持ちならないスノッブ、サー・バジルなどの英国側、独自のスパイ網をつくりあげ、優れたスパイたちを育成する、もと法律家でドイツ側のスパイマスター、フォーゲルなど、登場人物たちがみなしっかり過去をもった人物として描かれてるあたりはなかなか。ミステリとしてのしかけも効いてます。この結末はちょっち予想できなかったゼ。

 それにしてもテレビ・プロデューサーのデビュー作(いやプロデューサーが悪いとかいうんじゃなく)がいきなりこの完成度。うーむおそるべし(^^;)。なかなかおもしろかったっすよ(^o^)

00/7/3

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