あいどる

表紙

ウィリアム・ギブスン 著/浅倉久志 訳
カバーモデル MONA
カバーデザイン ビデオ・リチャード
角川文庫
ISBN4-04-265904-7 \762(税別)

 カリスマ的人気を誇るロック・デュオ、"ロー/レズ"のヴォーカリスト、レズの突然の爆弾発言、それは日本が生んだバーチャル・アイドル、レイ・トーエイ(麗 投影)との結婚宣言だった。アメリカの"ロー/レズ"ファンクラブの会員、チアは仲間からのプッシュに押し切られる形で日本に赴き、ウワサの真偽を確かめる羽目になってしまう。だがその旅の途中、チアはとんでもないトラブルに巻き込まれることになってしまった。一方、突然ホログラム・アイドルとの結婚などという爆弾発言にあわてたレズの側近スタッフたちは、レズとレイとの関係を探り出すべく、膨大なデータの中から、そのデータ間の繋がりを直感できる、という特殊な能力をもつ"ネットランナー"、レイニーにコンタクトを取る。巨大地震"ゴジラ"でいったん壊滅した東京を舞台に、疲れ気味のネットランナーと元気一杯の追っかけ少女の冒険が始まった………。

 前作、"ヴァーチャル・ライト"の登場人物も登場する、ギブスンの文庫版最新刊。同じ時系列に属する新刊、"フューチャーマチック"も刊行され、2000年代に入ってギブスン大復活の兆しなんでありましょうか。サイバーパンクって言葉があまりにもあっさりと死語扱いになってしまった後、ややもすると精彩を欠いてしまったかのように見えていたギブスンですが、"ヴァーチャル・ライト"に始まる、新しいギブスンノ3部作、2作目までは、なかなかに満足度の高いお買い得シリーズになっています。どこが良いのかといえば、ワタクシ思うに"サイバーパンク"、って言葉の呪縛からギブスンが解き放たれたことが大きかったのではないか、って辺りにその答えがあるような気がするのですがいかがなものか。

 サイバーパンク、などというわかったようなわからんような言葉が死語になっちゃってくれたお陰で、そこで必要以上に悩まなくてもよくなった分、ギブスンお得意のさまざまな、魅力的な小物が満ちあふれるおもちゃ箱をひっくり返したような楽しさが満ちあふれた一冊といえるのではないかと感じました。いやいや、こりゃいいや(^o^)。

 もちろん単なるおもちゃ箱でおわらないからギブスンな訳で、本作ではその楽しさの裏に「カリスマは在るのではなく育てられるものだ」というテーマを潜ませているように感じます。タイトルの「あいどる」という言葉も、それは"あいどる"自身の資質やカリスマ性以上に、それをアイドルと認識し、アイドルとして扱う行為の拡大再生産によって言葉自体のもつ意味が大きくなるのだ、という示唆が潜んでいるように感じます。あたりまえといえばあたりまえなんですが、あらためて考えてみればなかなか意味深ではありますね。

 へんな思い込みをせずに、素直にお話の流れを楽しめる本。なかなか、良いです(^o^)。

00/6/6

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