犯罪捜査官

表紙

マーティン・リモン 著/北沢あかね 訳
カバーデザイン 岩郷重力
講談社文庫
ISBN4-06-264862-8 \1048(税別)

 韓国駐留アメリカ陸軍の犯罪捜査官コンビ、ジョージとアーニー。ふだんはソウルの歓楽街を気ままに流す二人だが、ひとたび事件が発生すれば、持前の行動力で事件を解決する無頼派だ。今日も繁華街の片隅で、ちょっと場にそぐわない清楚な美女からちょっとした小遣い稼ぎを頼まれる。在韓の国連軍に所属する英国軍兵士に、一通の恋文を届けてほしいというのだ。軽い気持ちで引き受ける二人。だが、彼らがメッセンジャー役になった相手の兵士はそれからいくらも経たないある日、全身をナイフで切りつけられた惨殺死体に変わり果ててしまっていた

 自分たちの伝書が元で彼が殺されたのだとしたら、二人にも容疑がかかりかねない。ジョージとアーニーはさっそく捜査を開始する。捜査が進むにつれ、二人の前には駐留軍の補給物資を盗み出し、韓国ブラックマーケットに横流しを行う謎の組織、"スリッキー・ボーイズ"の存在が明らかになってきた………

 '70年代の韓国を舞台に、駐留米軍の犯罪捜査官コンビが主人公という一風変わったシチュエーションのミステリというかハードボイルドというか、カバー裏の表現に従うならクライム・ノヴェル。

 一応独立国家でありながら、北朝鮮の脅威に常にさらされ、その安全保障の一部を外国軍にゆだねざるをえない韓国で、必ずしも標準的とはいえない生い立ちや環境にあったアメリカ人コンビが、駐留軍がらみで発生する事件に直面する、というシチュエーションがなかなか斬新。作者のリモンさん自身、ソウル駐留の経験もあるってことで、韓国の町や人々の描写など、なかなか深いものがあって興味深いです。韓国だけにとどまらず、日本と韓国の歴史的な背景などについてもかなりしっかりと調べてあるように見え、やけに日本人の過大評価が目立つクランシーの作品なんかより、遥かにアジアをわかっているな、と感じました。主人公、ジョージがアングロ・サクソンでなくメキシコ系アメリカ人、って設定も効いてますね。

 原文がそうなのか、訳がそうなのかはわからないんですが、前半妙に鼻につくというか、軽いというか、イマイチのめり込めなくて「これはスカかな」って心配になってしまったんですが、中盤以降はテンポもよく、なかなか楽しめました。かなりイケます(^o^)。

 不満があるとしたら、この作品、実はジョージとアーニーの物語としては第二話にあたるんだそうで、何があったか知らないですけどこういうのは困りますね。"刑事エイブ・リーヴァーマン"のシリーズなんかもそうなんですけど、シリーズものはちゃんと第一作から訳出してほしいなあと思います。第一作を読んでたら、もしかしたら前半に感じたイマイチ感も意外に気にならなかったかもしれないのにね。

00/5/26

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