20世紀特派員(1)

表紙

産経新聞「20世紀特派員」取材班・編
カバーデザイン 小栗山雄司
カバー写真 産経新聞社
扶桑社文庫
ISBN4-594-02906-X \714

 産経新聞に連載されていた、「20世紀特派員」シリーズを単行本にまとめた本。もともとの連載を読んでいるわけではないので、このシリーズが全体でどの程度のボリュームになるものなのかはわからないのですが、1冊目のこの本では、ロシア革命からソ連崩壊までの歴史、20世紀に入って列強が注目しはじめた太平洋という地域の動き、前章とも関連して、遅れて植民地帝国主義のパイ取り競争に参加した、日本による大陸進出の歴史、それから第二次世界大戦前夜から、ベトナム戦争の前夜に至る期間、アメリカは何を敵と捉えてきたかについてのルポルタージュ。

 基本的に産経新聞ってことで、その論調は"やや右寄り"ってことになる訳ですが、日本による韓国併合に始まり、今に至るも尾を引いている、いくつかの島の領有問題であるとか、朝鮮王朝の末裔のエピソードなど、少々しつこいのぉと思わんでもないけれど、まあそれはそれでよい。立場はいろいろあるほうがよいに決まっておる。ただ、右も左も最後には情緒に訴えようとする傾向は何とかならんかとは思いますけどね。

 ま、それはそれとして、「ほう」と思うトピックがありました。アメリカ国内の日系人が、戦争の勃発と同時に収容所に送られたエピソードは知られていますが、それとは別に、ペルーに移住していた日本人たちもまた、国外追放の憂き目に会い、なぜか(本国送還ではなく)アメリカの収容所送りになっていた、というエピソードなんかそうですね。この史実は初めて知りました。戦争という異常な状況のなかで、それまで少しずつたまっていた鬱積が、一気に狂気のようなものにまでエスカレートしてしまう過程というのは少々肌寒いものがあります。このことは、あの時代に限らず現在ただいまもなお、われわれの心の奥底に潜んでいるものなのであろうと思います。

 丹念な取材の光る好著、とも言えるのですが不満もあります。先にも書いたペルーから国外に追放され、アメリカに移送された日本人たちがいた、というトピック以外は、じつはさほど新味に富んだ話題があるとはいえないんだよなあ。どっかで聞いた話のオンパレードなのね。まあそれをあらためてまとまった読み物に構成した、ってところが功績なのかもしれないけど。

 結構な分量のわりに平易にわかりやすく書かれているところとか、評価するにやぶさかでないところはあるんですが、切り口の甘さとか、気になるところも多い本。これではちょっと、続きを買う気が、ねぇ(^^;)

00/5/11

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