屈せざる者たち

表紙

辺見庸 著
カバー絵 西方久
カバーデザイン 坂川栄治+藤田知子(坂川事務所)
角川文庫
ISBN4-04-341704-7 \590(税別)

 「『民』食う人びと」に続いて「もの食う人びと」の辺見庸さんの対談集を読む、というのはなんかできすぎな感じですが、まあある意味連想ゲームが働いて購入したワケで(^^;)。

 もしかしたら今の日本でただ一人の「無頼派」作家といえるのかもしれない辺見さんと、深作欣二さん、船戸与一さん、北林谷栄さん、左幸子さん、串田孫一さんといった、一癖も二癖もありそうな人びととの丁々発止の対談集。対談相手のチョイスが秀逸で、船戸さんや深作さんなんてのはある意味いかにもな感じもあるんですが、松本サリン事件の河野義行さん、女優の北林谷栄さんや建築家の山本理顕さんといったあたりのチョイスはちょっと意表を突かれた気分。「もの食う人びと」で取材した、韓国の強制慰安婦問題の当事者である二人の老女との対談も読み応えがあります。

 無頼の作家と一癖ある対談者とのトークは、お互いやんわりと探りを入れつつも一見なごやかでいて、実はその裏でお互いに譲れないところは絶対に譲らない、という芯の強さがほの見えてなかなか興味深いです。

 僕はこの手の対談モノってのは、ホストがいかに口数を少なく押さえるかに成功の鍵があると思っています。そういう意味ではこの本、実は失敗しててもおかしくない本で、とにかく辺見さんの台詞がやたら多く、長い。当然対談相手の台詞の多くの部分が相槌程度になってしまう訳で、そうなると対談ってのは往々にしてホストによって結論があらかじめ予定されたものになってしまいかねない。実際この本のなかでも何度か、「辺見さん飛ばしすぎ」って思えるところが無きにしもあらずです。なんたって辺見さん自身がこのことは自覚してはるみたいで、ちょこっとそのへんのことともとれるコメントも読めたりします。

 にもかかわらずこの本が一筋縄で行かないのは、対談相手の強力な個性。辺見さんの誘導に対しても、さらりとそれを否定してしまえる左さんや北林さんの芯の強さってのは、本人の個性プラス、長い人生のなかで培われたモノといえるんでしょう。とりあえず北林谷栄さん(トトロのおばあちゃんの声の人です、念のため)の筋金の入りっぷりが最高に心地ようございました。これだけでも読む価値ありです。ぜひ読んでみるよろし(^o^)

00/4/3

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