「フレームシフト」

表紙

ロバート・J・ソウヤー 著/内田昌之 訳
カバーイラスト 加藤直之
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワSF文庫
ISBN4-15-011304-1 \880(税別)

 カリフォルニアでヒトゲノムの研究に従事するカナダ人研究者、ピエール。彼には実の父親がハンチントン舞踏病で命を落とし、その父の遺伝子が自分にも受け継がれているかもしれない、という不安と、そのことから来る"限られた時間"を精一杯役立てようとして遺伝子の秘密に挑む研究者だった。そんな彼に惹かれる同じ学校の心理学教授、モリー、彼女にもまた、ひとに言えない秘密があった。そんなカップルがある夜、とつぜん暴漢に命を狙われる。彼ら、正確にはピエールを狙った男はネオ・ナチの党員。だがピエールにはネオ・ナチから命を狙われる覚えなど全くなかったのだ………

 常々わたしゃ、SF界のほらふきオジサン、って称号はラファティ以上にソウヤーさんにこそふさわしいんではないかと思ったりしています。その、しれっとした態度で「だってそうでしょー?」ってな感じで大ぼらを吹いてくれる態度こそ、真のほらふきオジサンにふさわしいんではないかと。このへんは彼の傑作、「さよならダイノサウルス」あたりを読んだ方ならうなずいてくださるんじゃないかなあ。

 そんなソウヤーさんの邦訳最新作は、懐かしい「ゴールデン・フリース」を髣髴とさせるようなSFミステリ。SF的なニュアンスはかなり低いんで、SFはちょっと、って方もかなり楽しめるんじゃないでしょうか。とりあえず「パラサイト・イブ」を途中で投げ出さずに楽しめた人なら、本書も充分楽しめるはず。

 遺伝子工学の最新情報(あるいは、それにみせかけたソウヤーさんの大ぼら)を縦糸に、かつてのナチス・ドイツの"優勢人類"思想にまつわるミステリを横糸に織り成すSFミステリ、って感じで読ませる一作。やってくれるぜソウヤーさん(^o^)。SF好きな人はもちろん、SFはちょっと、って思う人でも充分楽しめる一作なんではないでしょうか。いつもはSF的な思考のアクロバットで読んでる側を「おお、そうきたか」的な快感を味あわせてくれるソウヤーさん、今回はミステリ側のお話づくりで「おおっ」と思わせてくれます。クライマックス直前でのどんでんがえしのうまさなんざ、まるでゴダードの作品を読んでるような感じ(^o^)

 いやーおもしろかった。これはいいですよ、お薦めっす(^o^)。

00/3/28

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