「ミクロ・パーク」

表紙

ジェイムズ・P・ホーガン 著/内田昌之 訳
カバーイラスト 加藤直之
カバーデザイン 矢島高光
創元SF文庫
ISBN4-488-66322-2 \980(税別)

 マイクロマシンのコントロールに革新的な技術、直接神経接続(DNC)を持ち込み、急成長しようとしているハイテク企業、ニューロダイン社。その社長、エリックは、かつて同種の研究開発を行う大手企業、マイクロボティクス社からスピンオフした若手のベンチャー。そしてエリックの息子、ケヴィンはそんな父親の才能を受け継いだハイテクキッズ。今日もケヴィンは親友のタキとともにDNCを使ったマイクロ工作員での冒険に余念がない。マイクロマシンを使った革新的なテーマパークの話も持ち上がり、行く末はばら色にみえたニューロテックとエリックたちだったが、そんな彼らに忍び寄る陰謀の影が………

 ホーガンの邦訳最新作は、ナノマシンとまでは行かないけれど、充分小さなマイクロマシンを扱った、ミステリ寄りのエンタティンメント作品。「トイ・ストーリー」的おもちゃたちに人間の心を乗り移らせ、思い描くだけで自由自在にそのおもちゃを自分の体同様に自由に操ることができるようにありつつある世界、って感じか。なにせホーガン作品ですから、このへんのSF的な小道具に対する描写のうまさは天下一品。今回はあえてナノテクではなく、それよりはひと段階大きいレベルの、マイクロマシンに目をつけたあたりはなかなかやるな、って感じ。

 んがしかし、今回の作品、ホーガンSFの最大の持ち味ともいうべき、あの、胸のすくような逆転サヨナラ満塁ホームラン的快感に少々乏しいかな、と思えなくもないのが少々ツライ。キャラクター造型、スリルとサスペンスの強弱のつけ具合、どれをとっても大きな破綻はないように感じられるんですが、でも、こう、なんていうか物足りないんだよなあ(^^;)………。

 ホーガンは一時非SFとでもいうべき社会派サスペンスモノに手をつけたことがあって、このときの作品群がどちらかというと退屈なものがあって、SFに戻ってきたときにはうれしかったモノですが、この作品ではその、退屈な部分が戻ってきちゃったかもしれないな。悪くないんだけど、とてもいいってモノでもないですねえ。SF的論理のアクロバティックでなく、お話が重要なだけに、そこが上手に描けてない気がします。

 天才オタク少年、ケヴィンをもっと中心に据えた、ジュヴナイル的なお話になってたらもっとおもしろかったかな、とも思うんですけどね。ケヴィンがらみで、結構いい文章がありました。

 いつでも、おとなたちから返ってくる台詞は、「そんなことはできないよ、だって………」といった否定的なものになりがちだ。ケヴィンが話をしたいのは、「なあ、こういう手があるんじゃないか………」というように、肯定的な意見を口にしてくれる相手なのだ。アメリカ人ならそういう姿勢を持つべきではないのか?

 アメリカ人に限定するなよ、って気はしますけど、こういうノリは大好きなんだけどなあ(^^;)。あ、それと邦題「ミクロ・パーク」はちょっと本書にはそぐわない感じもします。原題は「Bug Park」。読んでみれば解っていただけると思うけど、こちらのほうがはるかに本書に向いてると思うんだけど。とりあえず今回はちょっとスカ引いた気分なんで、次のホーガン作品に期待じゃ(^^;)。

00/3/27

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