「怒りの日」

表紙

ラリー・ボンド 著/広瀬順弘 訳
カバーデザイン 大久保明子
カバー写真 ©John Gaumy/Magnum Photos Tokyo
文春文庫
ISBN4-16-725452-2 \905(税別)

 ロシアの空軍基地を査察して帰路にあった米露合同兵器査察団を乗せたヘリコプターが突然のアクシデントで墜落、乗員たちが全員死亡する、という事故が発生する。これまた米露合同の事故調査団がただちに組織され、事故原因の究明にあたるが、事故の現場には不可解な遺留品が。浅からぬ因縁を持ちながらしばらくのブランクの後偶然調査団で再会した陸軍軍人、ピーター・ソーン大佐とFBIの調査官、ヘレン・グレイは事故の真相を探ろうと活動を開始するが、彼らのまわりには次々と不可解な事態が発生する。アメリカ本国をターゲットにした、巨大なテロの計画がこの事故の背後には潜んでいたのだ。

 「レッド・オクトーバーを追え」に続くクランシーのハイテク軍事サスペンス、「レッド・ストーム作戦発動」の共著者として有名になった、ラリーボンドの新作。どうやら前作、「テロリストの半月刀」のキャラクターたちが再び活躍する、一種の続編的な作品なんですが、前作を読んでいない僕もそんなに困ることもなく楽しめました。「レッドストーム」に続いてボンドさん、「侵攻作戦レッド・フェニックス」という朝鮮半島を舞台にしたハイテク軍事サスペンスがありまして(こっちは読みました)、まあ標準的な出来ながらも女性兵士にかなり筆を割いていたのが結構目新しかったんですけれども、どうもボンドさんのスタンスとして、戦うのは男も女もいっしょ、みたいな感じがあるみたいで、本作でも女性FBI捜査官、ヘレンがほとんど主役で大活躍します。

 件の「レッド」がくっついた二作品の印象からか、ラリー・ボンドって人はクランシーばりのハイテク軍事サスペンス、キャラクターの描写は薄味かステレオタイプ、って感じの人なのかなと思っていたんですが、本書ではいい意味で裏切られました。国家規模のテロリズムに対抗する腕利きの軍人とFBIエージェント、って図式はたいへんハイテクサスペンス向きのツカミだと思うんですが、ボンドさんはあえて世界最強のアメリカのテクノロジーに頼ることなく、ピーターとヘレンがひたすら自分の足でかけずりまわっていくって感じのお話になってましてなかなか好感が持てる。読んでいないので良くは事情が解らないのですが、この二人、前作で精神的、または社会的にかなりダメージを負っているようで、そういうハンデを背負って、圧倒的な不利の中、自分の頭と体だけを頼りに巨大な敵に立ち向かう、って図式はなかなかです。

 思った以上にできがいい、ある意味拾い物でありましたが、これはあらかじめ「こんなもんかな」って僕が引いていた線がかなり低めだったこともあるんで、思った以上に出来は良かったけど、飛び抜けて出来が良かったわけでもないのが少々辛いところではありますが(^^;)。でもそんなに悪くないと思いますよ。通勤電車のお供には最適かと(^o^)

00/3/24

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